4-34 知の終着点
第四章
七賢者編
第三十四話
白い世界が揺れる。
認識者は本を開き、今までで最も速く思考した。
「重力。」
世界が沈む。
「視界。」
白が黒へ染まる。
「距離。」
セレスとの間が何百メートルにも広がる。
「存在。」
セレスの身体が再び薄くなり始める。
四つの世界改変。
同時発動。
今までの認識者なら、一つずつだった。
本気だった。
「終わりだ。」
「世界は私の認識に従う。」
セレスは深く息を吐く。
無数の情報が流れる。
世界中から。
認識者へ。
一本。
二本。
百本。
千本。
その全てを読む。
そして。
たった一本だけを選んだ。
認識者の『視覚情報』。
「切る。」
指先が空をなぞる。
その瞬間。
認識者の視界が白く消えた。
「……!」
初めてだった。
認識者が。
何も認識できない。
世界が止まる。
重力が消える。
距離が戻る。
存在消去も止まる。
認識者はすぐに視覚を捨てた。
「ならば聴覚。」
世界が再び動く。
セレスは笑う。
「そこ。」
今度は聴覚情報を遮る。
認識者の耳から音が消える。
「嗅覚。」
遮断。
「魔力感知。」
遮断。
認識者は次々に認識手段を切り替える。
だが。
全て。
セレスの方が一歩速い。
「馬鹿な……。」
認識者は初めて後退した。
「どうして。」
「私の認識へ先回りできる。」
セレスは静かに剣を抜く。
刀身へ光は宿らない。
必要ない。
「あなたは。」
ゆっくり歩く。
「世界の認識を書き換えていた。」
「私は。」
一歩。
また一歩。
「あなたへ届く情報を読んでいた。」
認識者は本を握り締める。
「違う……。」
「情報だけでは世界は変わらない!」
セレスは頷く。
「そう。」
「情報だけじゃ変わらない。」
認識者の目を見る。
「でも。」
「情報によって、人は変わる。」
「人が変われば、認識が変わる。」
「認識が変われば、世界が変わる。」
静寂。
認識者は初めて笑った。
「そうか……。」
「私は。」
「世界だけを見ていたのか。」
セレスは剣を構える。
「だから、いつの間にか見失っていた。」
一閃。
光ではない。
速さでもない。
認識者が”認識できない”一瞬を突いた、純粋な剣技だった。
本が宙を舞う。
認識者の胸へ浅く一本の斬撃が刻まれる。
認識世界が崩壊を始めた。
白い世界へ亀裂が走る。
認識者は膝をつき、小さく笑う。
「……完敗だ。」
「始祖様は。」
静かに目を閉じる。
「お前を最も危険だと言っていた。」
「理由が分かった。」
「お前は。」
セレスを見上げる。
「人を導く知を持っている。」
認識者の身体は粒子となって消えていく。
白い世界も音を立てて砕け散った。
地下神殿へ戻る。
セレスは折れた左腕を押さえながら前を見る。
その瞬間だった。
──ドォォン!!
突然、神殿全体が揺れる。
遠くの壁が崩れ、一人の男が吹き飛ばされた。
「……バルド!」
巨大な盾を抱えたまま、バルドが血を吐いて倒れる。
全身は傷だらけ。
盾には無数の亀裂が走っていた。




