4-33 情報を断つ者
第四章
七賢者編
第三十三話
白い世界が震えた。
認識者が本を開く。
「終わりだ。」
その一言だけだった。
セレスの身体がさらに薄くなる。
右腕。
胸。
輪郭。
存在そのものが世界から消え始める。
「認識されないものは存在しない。」
「これが世界の法則だ。」
認識者は静かにページをめくる。
「消えろ。」
世界が書き換わる。
セレスは目を閉じた。
(来る。)
その瞬間。
初めて見えた。
一本。
いや。
無数の細い光。
認識者の周囲へ、世界中から流れ込む無数の線。
音。
熱。
魔力。
空気。
全てが一本一本の光のように認識者へ集まっていた。
「……これが。」
セレスは息を呑む。
「情報。」
認識者は眉をひそめる。
「何を見ている。」
セレスは笑う。
「ようやく見えた。」
右手をゆっくり前へ伸ばす。
光は生まれない。
認識者の世界では光は存在しない。
だから。
作らない。
指先が一本の情報へ触れた。
切る。
プツッ。
ほんの一本。
それだけだった。
「……?」
認識者の視界が一瞬だけ揺れる。
世界が止まる。
ほんの〇・一秒。
「何をした。」
認識者が初めて声を荒げた。
セレスは立ち上がる。
「光を出したんじゃない。」
「あなたへ届く情報を切った。」
認識者は即座に本を開く。
「無意味。」
ページが高速でめくられる。
「左腕は折れている。」
「右脚は砕ける。」
「呼吸は止まる。」
「重力は十倍。」
「視界は消える。」
五つの認識が同時に放たれた。
今までとは比べものにならない速度。
世界そのものが牙を剥く。
だが。
セレスの瞳には。
全ての情報が見えていた。
一本。
二本。
三本。
四本。
五本。
世界を書き換える前。
認識者へ流れ込む情報だけが見える。
「遅い。」
セレスが呟く。
指先が走る。
一本。
また一本。
情報が断ち切られる。
世界が止まる。
重力が消える。
腕は折れない。
呼吸も止まらない。
認識者の瞳が大きく見開かれた。
「認識できない……。」
初めてだった。
認識世界が。
認識者の意思通りに動かなかった。
「そんな馬鹿な。」
「情報が……届かない。」
セレスは静かに構える。
光はない。
剣もない。
それでも。
今までで一番力強く立っていた。
「光は武器じゃない。」
静かな声が白い世界へ響く。
「情報だ。」
「そして。」
「情報は、世界より速い。」
認識者は本を握り締める。
その顔から。
初めて余裕が消えた。




