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女神の食堂 ―どうやら神の末裔の私ですが、ここが私の居場所です―  作者: 瀬戸


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第四十一話 いやぁ……もうあれから三年か

――悪魔メフィスディーテが消滅してから、三年。


季節は巡り、夏の朝。

やわらかな陽光が差し込む中、食堂ルミナリエでは一日の準備が始まっていた。


キッチンに立つのは――リリア。

そして、もう一人。


「リリア、パンの焼き加減、こんな感じでいいの?」

オーブンの前で振り返ったのは、ミーナだった。


かつて孤児院で暮らしていた少女は、今やすっかり大人びた表情を見せている。


「ありがとう。バッチリよ、ミーナ」

リリアは笑顔でうなずいた。


「最近、レンとは会ってるの?」

レン――かつて孤児たちをまとめていた最年長の少年。

リリアは彼にも、この店で働かないかと声をかけたことがある。


だが、返ってきたのは苦笑混じりの言葉だった。


――そんな稼げないだろ? ミーナ一人で手一杯だろうしよ。


ミーナはパンを並べながら答える。

「たまにね。今は運送業者でチーフになったらしいよ。親方に気に入られてるんだって」


少しだけ誇らしげに、そしてどこか照れくさそうに。

「私もさ、ここで少し勉強したら、いずれは別の店に移って修行しようかなって思ってる。だから……もう少しだけ、お世話になるよ」


その言葉に、リリアは優しく微笑んだ。

「もちろん。いつでも応援してる」


やがて準備が整い――

店は、開店した。


外にはすでに、小さな影たちが集まっている。

「おねーちゃん! 今日のパンは!?」


先頭で声を張り上げたのは、食いしん坊のトーマ。

その後ろに、しっかり者のノアとサラ。


さらに、最近加わったばかりのミリアとカレンが、きょろきょろと周囲を見回している。

新しい孤児グループの面々だ。


「はいはい、並んでね」

リリアは慣れた手つきでパンとスープを配っていく。


店の外にはテラス席が増設されており、子どもたちはそこで夢中になって朝食を頬張った。

その様子を見て、リリアの表情がやわらぐ。


――ここが、居場所。


そんな想いが、胸に広がる。


そのとき。

「今日もいつものモーニングで」

穏やかな声が響いた。


振り向くと、そこにはベネディクトの姿。


「いやぁ……もうあれから三年か」

彼は遠くを見つめながら、ぽつりと呟いた。

「まだ、生きながらえている」


「いつまでも長生きしてください」

リリアが微笑む。


「女神様に言われたら、断れませんね」

ベネディクトは、冗談めかして肩をすくめた。


「ベネディクトさんの正体を知る前は、もっと“おじいちゃん”って感じでしたよね?」


「ええ、それはもう」

彼は苦笑する。

「あなたの前では、私が神の末裔であることも、王の密偵であることも、レオニス様の配下であることも秘密でしたから」

「体の悪い老紳士を演じていたんです。まあ……老齢であることは事実ですが」


リリアはくすりと笑った。

「パパとママは元気?」


「ええ」

ベネディクトは静かにうなずく。

「クラウゼル家の邸宅で、今もあなたのことを気にかけておられます」

「今からでも、一緒に住まわれてもよろしいのでは?」


リリアは、少しだけ考えてから首を振った。

「私の父母は……やっぱり、この店にいた育ての父母なの」


優しく、しかしはっきりとした声。

「もちろん、あちらの両親にも想いはあるし、行き来もしてるけど……」


「それでいいのだと思います」

ベネディクトは穏やかに言った。

「クラウゼル家のご両親も、きっと納得されていますよ」


「……レオニスは?」


「元気にしておりますよ」

ベネディクトは答える。

「マルクスと悪魔の記録を残しています」


「マルクスって……あの?」

リリアの表情が強張る。


「ええ。彼は無事でした」

「一度は刑に服しましたが、特例で釈放されました」

「自らの償いとして、悪魔の記録を後世に残すと……レオニス様に協力しておられます」

「二百年後の子孫のために、ね」

そして、ふと思い出したように続ける。

「そういえば、レオニス様はクラウゼル家当主の座をエリシアお嬢様に譲られました」


「えっ!? エリシアが!?」

リリアは目を丸くした。

「女性が公爵家の当主に……なれるの?」


「問題ありません」

ベネディクトは即答した。

「エリシア様は政治経済に非常に優れ、人心掌握にも長けておられる」

「すでに議会の実権も握っておられます」


リリアは、ふっと笑う。

(……たしかに)

(あの人、人の心をつかむのが上手すぎるのよね……)


そこへ――

「あら、ベネディクトさん。今日もリリアちゃんを独占ですか?」


華やかな声が響いた。

常連の貴族婦人たちが入ってくる。

「たまには私たちともお話させてくださいね」


「これは失礼」

ベネディクトは微笑みながら席を立った。


婦人たちはいつもの席に座り、クッキーと紅茶を楽しむ。

その接客に回ったのは、ミーナだった。


「良いパートナーができましたな」

ベネディクトが小声で言う。


「はい」

リリアは嬉しそうにうなずく。

「ミーナがいてくれて、本当に助かっています」


――そして、時は流れ。


夜。


店の灯りが、街をやさしく照らす。


「夜営業、お願いね」


「任せて!」


ミーナに店を託し、リリアは外へ出た。


 向かう先は――一つ。


 彼のもとへ。

 そう、アルヴィンの元へ。

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