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女神の食堂 ―どうやら神の末裔の私ですが、ここが私の居場所です―  作者: 瀬戸


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第四十二話(最終話) 食堂が私の居場所なの

夏の夜風が、街の灯りをやわらかく揺らしていた。

その中を、リリアは静かに歩く。


今夜は――招かれていた。


ヴァルディア公爵家での、ディナーに。

重厚な門をくぐり、案内された先。


広い食堂で、アルヴィンが待っていた。


「来てくれてありがとう」


「こちらこそ、お招きありがとうございます」


二人は向かい合って席につく。

その様子を見届けるように、総執事のジイと、メイドのメイが一礼した。

「ごゆっくり」


「ジイ、早く行け」

アルヴィンがぶっきらぼうに言う。

ジイはニヤリとした。


「メイちゃん、あとで話そう」

リリアが微笑むと、メイはぱっと顔を輝かせてうなずいた。


そして二人は、静かにその場を後にする。


残されたのは――二人だけ。

「……三年ぶりだな」


「ええ、三年ぶりですね」


静かな言葉のやり取り。

だが、その奥には積もった時間があった。


アルヴィンは、少し不満げに眉をひそめる。

「ルオーネ王やレオニスが言うから守ってきたが……本当に会っちゃいけなかったのかどうか」


「世間には、私が女神だってことを隠さなきゃいけなかったから」

リリアはやわらかく答える。

「そうしたほうがいいって。でも……私も、アルヴィン様に会いたかったんですよ?」


少しだけ、拗ねたように。

「そんな顔しないでください。私だって、我慢してたんです」


その言葉に、アルヴィンの表情がふっと緩む。

「……じゃあ、仕方ないか」


照れ隠しのように視線を逸らす。

「そういえば……君の近くにいた精霊は? 今は見えないが」


「レオニスに聞いたの」

リリアはゆっくりと言った。

「女神に覚醒したときに、私の中に統合されたらしいの」


「統合……?」


「うん。それができたのは、私の両親だったみたい。詳しいことは分からないけど……」


「精霊と統合された今でも、会話はできるのか?」


「ううん。でもね」

リリアは、胸に手を当てる。

「ここにいるって、ちゃんと感じるの。だから……そこまで寂しくはないわ」

ふっと微笑む。

「それに今は、ミーナもいるしね。食堂も賑やかよ」


少しだけ、日常の話へと戻る。

「カイルやローエン団長は元気?」


「ああ」

アルヴィンはうなずいた。

「ローエン団長は、もうすぐ退団する。俺が団長になることになった」


「えっ……!」


「カイルを副団長にするつもりだ。それと――」


少しだけ、照れくさそうに。

「女神覚醒への貢献と聖剣での守護を讃えられて、“ホーリーナイト”の称号ももらった」


「すごい……」


「この三年は、団長の仕事も引き継いでいたんだ」


リリアは嬉しそうに頷く。

「アルヴィンのお母様…エレノアさんは? お元気?」


「ああ、元気だよ」

アルヴィンは少し柔らかい表情になる。

「ただ、社交界は引退した。代わりに俺が出るようになったからな」


「今は、庭でのんびり園芸して、過ごしてる」


「そっか……」

リリアは小さく息をついた。


「なんだか……いろんなことがあったね」

「たくさんのことが変わって……嬉しいけど、ちょっと寂しいっていうか……」


「……ああ」

アルヴィンも同じように頷く。

「君に出会ってから、驚くことばかり…」

「神の末裔、女神、悪魔……どれも信じられない話ばかりだ」

「それに、レオニスたちが神の末裔だったなんてな」


少し苦笑する。

「俺も社交界に出て、団長になる。……不思議な気分だよ」


そして――

少し間を置いて、まっすぐに言った。

「それで……考えてくれたか?」

「ヴァルディア公爵家への嫁入りについて」


静寂が落ちる。

リリアは、ゆっくりと顔を上げた。

「……私は、女神だから」


その言葉は、優しくも重かった。

「食堂が、私の居場所なの」


そして、少しだけ視線を落とす。

「話してなかったことがあって……あの食堂、聖地なの」


「聖地……」


「うん。だから、離れることはできないの」


アルヴィンは少し困ったように頭をかいた。

「……その、結婚しても、たまに聖地に通えばいいんじゃないのか?」


その言葉に。

リリアは、ふっと笑った。


そして――

そっと、身を乗り出す。


アルヴィンの頬に、やわらかな口づけを落とした。


驚くアルヴィン。


「ふふ」

いたずらっぽく微笑む。

「私……どうやら、あなたのお嫁さんになりたいみたい」


だけど――

「食堂が、私の居場所なの」


「……はぁ」

アルヴィンは天を仰いだ。


「女神様が相手じゃ、俺が譲るしかないか」

そして、肩をすくめる。

「じゃあ――俺が通うよ」

「食堂から、騎士団に」


「えっ!? 公爵様が、小さな食堂の二階に住むなんて……いいの?」

リリアが驚く。


アルヴィンは、にやりと笑った。

「それを言ったら、リリアは女神様だろ?」


一瞬の沈黙。

そして――


二人は、同時に笑った。


その様子を。

柱の影から、ジイとメイがそっと見守っていた。


さらにその奥では、エレノアも静かに微笑んでいる。

そして屋敷のあちこちで、使用人たちもまた、この光景を見守っていた。


新しい物語の始まりを。


――これから。


リリアとアルヴィンの、穏やかな日常の物語が始まる。


だが、それは。

また、別の話。


平和で静かな夜、楽しいディナーの時間はそれからも続いた。

完結です。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

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