表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の食堂 ―どうやら神の末裔の私ですが、ここが私の居場所です―  作者: 瀬戸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/42

第三十六話 もう会えない…

馬車の中は、静かだった。

規則正しく揺れる振動と、車輪が石畳を転がる音だけが、やけに大きく響いている。


リリアは、向かいに座るレオニスを見つめていた。

その答えを――待っている。


やがて、レオニスはゆっくりと口を開いた。

「……時間がない」


一拍置く。

「まだ話していないことも、すべてを話すとしよう」


リリアの胸が、わずかにざわつく。

(時間がない……?)


その意味を問いかける前に、レオニスは続けた。

「女神の力の核心について話すことになる」


リリアは息をのむ。

「核心……」


レオニスは、まっすぐにリリアを見た。

「その前に、君に守ってほしいことがある」

「城下町の人だけではなく、世界中の人々を守ること」


リリアの瞳が揺れる。


あまりにも大きすぎる言葉。

レオニスは静かに告げた。

「君の力は、世界のための力だからだ」


リリアは、ゆっくりとうなずいた。


理解はできていない。

でも――逃げてはいけない気がした。


レオニスは続ける。

「君の力は、万能の神“クロエ”の伝説に端を発する」


「クロエ……?」

聞き慣れない名に、リリアは首をかしげている。


だが、レオニスは続ける。

「詳細は分からない」

「だが、言い伝えでは――」

「このルオーネの聖地で力を覚醒させる、とある」


「聖地……?」


「その場所の名前は、聖地“ルミナリエ”だ」


その言葉に、リリアの目が大きく見開かれた。

「ルミナリエ……!?」


胸の奥が、どくんと鳴る。


それは――

自分の店の名前。


レオニスは静かにうなずいた。

「そうだ」

「君の食堂がある場所こそが、聖地だ」

「元々、あの店は君の養父が先代から譲り受けたもの」

「ルミナリエの店主は代々、聖地を守る役目を担ってきた」


リリアの思考が追いつかない。

「じゃあ……私のパパとママは……」


「聖地の守り人だった」

レオニスの言葉は、淡々としていた。

「女神は聖地で育つことで力を解放する」

「私がこの国を守る理由もそこにある」

「聖地を守ることが、世界を守ることに繋がる」


リリアは俯いた。

「私を覚醒させるために……食堂に預けた……」

「パパとママは……私にとっては……ただの、大好きな両親だったのに……

 そんな使命を持っていたなんて…」


レオニスは、わずかに目を細めた。

「きっと、彼らにとっても同じだ」

「君は守るべき女神であり――娘でもあった」

「その気持ちは本物だ」

「私はずっと見てきた」


その言葉に、リリアは少しだけ救われた気がした。

「……その…私の育ての親は“オルド・セラフィム”の人だったの?」


「いや」

レオニスは首を振る。

「王家の人間だ」

「正確には、王の息のかかった者たちだ」

「ルオーネ王家は、オルド・セラフィムの協力者だからな」


リリアは息をのんだ。

「じゃあ……王様も、私のことを……?」


「当然、把握している」

レオニスは淡々と答える。

「監視……いや、見守っていると言うべきか」


リリアは小さくつぶやいた。

「知らなかった……」


「ああ」

「知らせていなかった」

レオニスは視線を落とす。

「本来は、徐々に君に状況を伝える予定だった」

「私もすべてを把握しているわけではない」

「いろいろ完璧に進められるわけではないのだ」

「なんたって、二百年周期の女神降臨だ。参考にできる前例がない」

「だが――」


再びリリアを見る。


「ベストは尽くしてきた」


その言葉は、強かった。


リリアはぽつりと言う。

「それが……オルド・セラフィム代表としての責務……」


「分かってくれたようだね」


リリアは顔を上げた。

「……私のこと、王様はどうやって見守っていたの?」


レオニスは短く答えた。

「君の店の常連の老紳士、ベネディクトだ」


リリアの目が見開かれる。

「え……あのおじいさま……?ベネディクトっていう名前だったの…」


「ああ」

「ベネディクトは、オルド・セラフィムの人間だ」

「そして、王との連絡役でもある」


「連絡役……?」

リリアは信じられないという顔をした。


レオニスは続ける。

「ああ、“オルド・セラフィム"として表立って活動するのは、

 ベネディクトだけにしている」

「この組織は、存在自体を知られてはならない」

「血を継ぐための集まりだからな、存在そのものが極秘なのだ」

「王家でも知っている者は"王のみ"」

「王から王へ一子相伝で伝えられる」


馬車が揺れる。

しばらく沈黙が続いたあと、リリアが口を開いた。


「……それにしても」

「今日は、何でも話してくれるのね」


レオニスは黙っている。


「さっき、“時間がない”って言ってたけど……」

「それと関係あるの?」


「……ああ」

レオニスの短い返事。


リリアの胸がざわつく。

「もしかして、何かあったの?」


レオニスは、わずかに視線を逸らした。

「……君の覚醒が難しくなった」


「え?」

リリアは瞬きをする。

「でも私、もう聖地で無事に育って、既に覚醒してるんでしょ?」

「あ……もしかして」


思い至る。

「実の両親に会うことが……完全な覚醒の条件って話?」


レオニスは――答えない。


沈黙。

リリアは、ぐっと拳を握った。

「……レオニス」

「全部話してくれたんでしょ」

「だったら、私も協力する」

「馬車を引き返して」


レオニスは、何も言わない。


「私、会うわ」


まっすぐな瞳。

「実の親がどんな人か気になるし……」

「育ての両親が親だと思ってるのは変わらないけど」

「生んでくれた人も……やっぱり親だし」


声が少し震える。

「実の親に会えば、女神として完全な覚醒が果たせるんでしょ?

 完全な覚醒をして――」

「みんなを守りたい」


レオニスは、遠くを見ていた。

まるで、何かを見ないようにするかのように。


「ねえ!」

リリアが声を上げる。

「レオニス、聞いてるの!?」

「私、やるって言ってるのよ!?」

「会うわ!」

「覚醒が難しくなったって……私が実の両親に会うことを断ったからでしょ!?」


沈黙。

そして――


レオニスは、ようやく口を開いた。

その声は、いつもより低かった。


「……もう会えない」


リリアの呼吸が止まる。

「え…」


わずかな間。

レオニスは静かに言葉を出した。


「おそらく――」

「もう、死んでいるかもしれない」

ブックマークと評価について、よろしくお願いします。

※毎週更新を予定しております。話数や更新時間帯は不規則となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ