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女神の食堂 ―どうやら神の末裔の私ですが、ここが私の居場所です―  作者: 瀬戸


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第三十三話 神の末裔は、君一人ではない

海を見下ろすクラウゼル公爵邸。


夜。


食堂の大きな窓の向こうには、月明かりに照らされた海が広がっていた。

昼とは違い、海は真っ暗だ。


だが、波が揺れるたびに――

銀色の光がきらきらと瞬いている。


その景色を背に、

レオニスとリリアは向かい合って座っていた。


テーブルは長すぎず、短すぎず。

二人で食事をするのに、ちょうどいい距離。


リリアはフォークを持ったまま、

ふと周囲を見回した。

「なんか……」

「貴族って、長ーいテーブルでご飯食べるんだと思ってた……」


レオニスが優雅にワインを口に運ぶ。

「長いテーブルがいいなら、用意することもできるが?」


リリアは慌てて首を振った。

「ううん、いらない……」

「なんか……ここ、不思議だわ」


彼女は窓の外の海を見た。

「妙に落ち着くというか……」


レオニスは微笑む。

「それは結構」


リリアは少し考えてから、ぽつりと続けた。

「それに……」

「レオニスは公爵様なのに……なんか親戚?みたいな感覚?」


レオニスは声を上げて笑った。

「はっはっは!」

「やはり、リリア様は面白い」


リリアは眉をひそめる。

「ちょっと!」

「私のこと、リリアって呼ぶの? リリア様? リリア嬢? 女神?」

「…んもう。リリアで統一してくださる?」

「なんかからかわれてるみたいで……落ち着かないの」


レオニスは軽く頭を下げた。

「それは失敬」

「そんなつもりはなかったが」

「では、リリアと呼ぼう」


そして、にやりと笑う。

「君も気づけば、レオニスと呼んでくれているようだ」

「一歩、夫婦に近づけたかな?」


リリアがじっと見つめる。

「それ、本気なんですか?」


レオニスは首をかしげた。

「冗談の方がよいか?」


「……そういうところです!」

リリアは思わず身を乗り出した。

「あなたがどうしてそんなに馴れ馴れしいのか……」

「偉そうというのとも違うし……」

「ふざけてるのとも違う気がするし……」

「一体何なんです!?」


そして思い出したように言う。

「そういえば!」

「さっき変なこと言ってましたよね!」

「私の本当の両親について話すとかなんとか……!」


レオニスはナイフとフォークを置いた。

「では、その件から話そう」


静かな声だった。

「君も知っているだろう」

「食堂の夫婦が、本当の両親ではないと」


リリアは目を伏せる。

「……知っています」

「母が死ぬ前に教えてくれました」


そして顔を上げた。

「でも、どうしてレオニスが知っているの?」

「私は……アルヴィンにしか話してない」


レオニスの眉が少し上がる。

「ほう。アルヴィンには話したのか」

「もしかして――精霊が見えることも?」


リリアの肩がびくりと揺れた。

「話しました……」


そして身を乗り出す。

「というか!」

「どうしてあなたは、私が話してないことまで知ってるの!?」

「レオニス、なぜあなたは知っているの!?」


レオニスは静かに言った。

「私はすべてを知っている」

「最初に会った日に言ったはずだ」

「あなたは神の末裔です、と」

「そして私が言うのだから間違いない、と」


リリアの胸に、

今まで感じていた違和感がよみがえる。


(……確かに言ってた)

(最初から断言してた……)


レオニスは続けた。

「ただし」

「君が浄化の力を使えることは――」

「レンという少年を浄化した時に初めて見て、理解したがね」


リリアの中で、

今までのレオニスの言葉が一本につながっていく。


そして彼女は、

一番聞きたかったことを口にした。

「……あなた」

「一体何者なの?」


レオニスは少し笑った。

「今日の質問の中で――」

「もっともまともな質問が出たね」


リリアが机を叩く。

「答えて!」


「答えたい気持ちはあるが……」

レオニスは肩をすくめた。

「まだ時期早々かな」


「もういい!」

リリアは腕を組んだ。


レオニスが少しだけ笑う。

「では――少しだけ」


その瞬間。

レオニスの表情が変わった。


真剣な顔。

知的で、静かな目。


リリアの胸が、

一瞬だけドキッとした。

(……なに、今の)

(こんな顔もできるんだ……)


レオニスが言う。

「リリア」

「神の末裔は、君一人ではない」


リリアの目が大きく開く。

「え!?」

「どういうことなの……?」


レオニスは静かに続けた。

「君の両親も神の末裔だ」

「もちろん、食堂の夫婦ではない」

「そして――」

「いまも生きている」


リリアの思考が止まる。

「……え?」


レオニスは淡々と言った。

「会いたいか?」


リリアは頭を抱えた。

「ちょっと待って!!」

「情報が多すぎる!!」

「まず生きてたってことも知らなかったし!」

「会いたいかどうかとか、そんなの……」

「気持ちの整理が追いつかない!」


そして睨む。

「大体、私の両親をどうしてレオニスが知ってるの!?」


レオニスは頷いた。

「確かに」

「話さないと、君は混乱するね」


彼は静かに言った。

「では、すべて話そう」





しばらくの静寂、そして――


「まず」

「私も神の末裔だ」


リリアが椅子から立ち上がりかけた。

「レオニスが!?」


「ああ」

「私の一族、クラウゼル家は神の末裔だ」

「そしてクラウゼル家の当主は代々――」

「"オルド・セラフィム"という名の"神の末裔の集まり"の代表を務めている」


レオニスは続ける。

「ただし、クラウゼル家はただのまとめ役。女神が生まれる家系ということではない」

「二百年周期で女神は生まれる」

「どういうわけか、悪魔降臨の時期に合わせてな」

「神の末裔の中から、突然に…」


レオニスはリリアを見る。

「そして実際に、君が生まれた」

「精霊とともにな」


リリアが息をのむ。

「……まるで」

「私が生まれたのを見たみたいに言うのね」


そして――

目を見開く。

「……まさか」

「見たの!?」

「こ、ここで生まれたの!?」


レオニスは頷いた。

「ああ」

「私が六歳の時だ」

「君の傍らには火と風の精霊がいた」

「それが女神の証だ」

「神の末裔の中でも、精霊の祝福を受けて生まれる者は女神しかいない」


リリアは呆然とした。

「……レオニスも精霊が見えるの?」

「ああ」


レオニスは微笑む。

「初めて君の食堂に行った時も実は見えていた」

「火と風の精霊がな」

「神の末裔は五歳以上になると精霊が見えるようになる」

「つまり――」

「女神が誰か、わかるのだ」


リリアは小さくつぶやく。

「……だから私が神の末裔だって断定してたのね」

「精霊がいるのかって聞いてたけど、本当は分かって試していたのね、私が秘密を明かすか…」

「全部、レオニスの発言には根拠があったんだ……」

(それに、私が精霊が見えるようになったのも確か五歳だった…

 レオニスが言っていることは私の経験と辻褄が合う…)


そして、ゆっくり顔を上げる。

「じゃあ」

「私を妻にしたいっていうのは?」


レオニスは、さらりと言った。

「クラウゼル家がこの王国を乗っ取るためだ」


リリアの声が裏返る。

「お、王国を!?」


「いや」

レオニスは静かに訂正する。

「取り返す、だな」

「もともと――」

「ルオーネ王国は、クラウゼル王国だった」


そして彼は、月明かりの海を見た。

「だが王家の座をルオーネ家に譲った」

「神の末裔として、血を残すためにな」

「他国との戦争で滅びる可能性を避けるためだ」


リリアは戸惑う。

「じゃあ今の方が安全じゃないの?

 どうして、王国を乗っ取る必要が?」


レオニスは首を振る。

「今の状態が安全ではなくなった」

「現ルオーネ王は守る戦いをしない」

「私なら――」

「悪魔降臨」

「他国の侵略」

「魔物の襲来」

「すべて対応できる」

「だが」

「王国を動かす権力がない」


彼はリリアを見る。

「だから私が王になる」

「そのためには――」

「君だ」

「リリア」

「君という女神の存在が公になれば」

「クラウゼル家が神の末裔であることを宣言できる」

「民衆も支持する」


そして静かに言った。

「だが」

「私は君を武器や信仰の象徴として利用するために見ているだけではない」

「君のことは同じ一族として大切に思っている」

「食堂に引き取られてからも、無事に育っているか、ずっと見守ってきた」


リリアは息をのんだ。

(わ、私のことをずっと影から守ってくれていたの…?)


レオニスは続ける。

「君の両親は、この邸宅に住んでいる」

「そして」

「君の女神の力を完全に覚醒させるには」

「封印を解く必要がある」

「それをできるのは――」

「君の両親だけだ」


リリアは何も言えない。


レオニスは最後に言った。

「だから」

「君が会いたいかどうかの前に」

「会ってもらいたい」


そして、微笑む。

「これがすべてだ」


彼は手を差し出した。

「どうだ?」

「私の妻となり――」

「共に王国を守ってはくれないか?」

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