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女神の食堂 ―どうやら神の末裔の私ですが、ここが私の居場所です―  作者: 瀬戸


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第三十話 私はどうやら神の末裔らしいのです

騎士団本部。

この日、騎士団の建物は朝から妙にざわついていた。


理由はひとつ。

レオニス・クラウゼル公爵閣下が来ているからだ。


それもただの訪問ではない。


騎士団副団長アルヴィンが担当する取り調べに直接立ち会うというのだから、騎士たちが落ち着かないのも無理はない。


「公爵閣下が騎士団に来るなんて……」

「しかもアルヴィン様の案件だぞ」

「また何かやり合うんじゃないか……?」


そんなひそひそ声が廊下のあちこちで聞こえていた。


――そして。

騎士団本部の奥。


小さな取調室。

五、六人ほどが座れる程度の部屋と机。


その机を挟んで。


こちら側には――

アルヴィンとカイル。


向かい側には、椅子に座るレン。


そして。


レンの後ろに立つ二人。

レオニスとリリアだった。


カイルが書類を見ながら口を開く。

「えー……まず第一の殺人」

「城下町西地区の雑貨店前で発生」


書類を指でなぞる。


「雑貨店の店主が、夕刻過ぎに殺害された模様」


紙をめくる。


「そして第二の殺人」

「犯行時刻は昨夜」

「ただし死体発見は……」


カイルは軽く肩をすくめた。

「同じく西地区の倉庫街で、ここにいる全員で行った」


レンを見て言う。

「状況から、お前が容疑者として挙がっている」


部屋の空気が重くなる。


カイルは腕を組んだ。

「レン」

「どうしてあそこにいた?」


鋭い視線。

「そして、どうして包丁を袋に入れていた?」


レンはうつむいた。

少しの沈黙。


そして――

ぽつりと話し始めた。


「……仕事だったんだ」


顔を上げる。

「あの倉庫まで袋を持っていけば」

「前金で金がもらえるって」


カイルが言う。

「お前の財布に入っていた、あの大金だな」


レンは頷く。

「成功報酬で……」

「あとで同じ額を払うって言われてた」


拳を握る。

「でも……」

「こんなことになるなんて……」


アルヴィンが静かに言う。

「レン」


優しいが、真っ直ぐな声。

「お前の話を信じるとしよう」

「そうなると」

「お前に仕事を依頼した奴が犯人かもしれない」

「お前に罪をなすりつけた可能性がある」


アルヴィンは少しだけ表情を緩めた。

「もう、こういう危ない仕事には手を出すな」


レンは素直に頷いた。

「……分かりました」


カイルが続ける。

「どんな奴だった?」


レンは少し考えた。

「短髪で……黒い髪」

「黒い目だったと思います」


カイルが書き込む。


アルヴィンが言う。

「最後に一つ」


静かな声。

「どうして金が必要だった?」


レンは少し黙った。


そして、ゆっくり口を開く。

「……今考えたら」

「バカなことしたと思ってる」


小さく息を吐く。

「この前のゴブリン騒ぎで」

「孤児院……人が増えたんだ」


リリアの胸が痛む。


「孤児院も、そんなに余裕あるわけじゃない」

「シスターたちも頭抱えてる」

「それに」


レンは拳を握る。

「孤児院に入れない子供も増えた」


声が少し震える。

「それに……」

「俺たちにご飯とか日用品分けてくれてた店も減った」


俯く。

「だから……」

「どうにかできないかって……」


アルヴィンは思った。

(本当は)

(俺たち大人がどうにかしなければならないことだ)

(なのに)

(こんな小さな子供に背負わせていたのか……)


その時。

「レン」


リリアが言った。

「ごめんなさい」


レンが顔を上げる。


「私だけ……安全な場所で守られて」

「店まで直してもらって」

胸に手を当てる。

「みんなも同じように日常に戻れたって……」

「勝手に思い込んでいた」


レンは困った顔をした。

「なんでリリアが謝るんだよ」


その言葉に。

レオニスが小さく笑う。

「その通りですね」

「リリアさん」

「あなたも被害者です」


レンは続けた。

「そんな時に……」

「昨晩、俺が捕まった倉庫の近くで」

「マルクスって男に声をかけられた」

「いい仕事あるぞって」


アルヴィンとカイルが顔を見合わせる。


「最初は」

レンが言う。

「なんで俺が仕事探してるって分かったんだろうって」

「ちょっとゾッとした」


視線を落とす。

「でも……」

「最近、大人も仕事探してる人多いし」

「誰にでも声かけてるのかなって」


カイルが言う。

「マルクスって男は、さっき言っていた黒い短髪、黒目の男か?」


レンは頷く。

「はい」

「なんか……」

「俺のこと全部見透かされてる感じがして」


不安そうな顔。

「簡単な仕事だって…言われて」

「東地区の孤児院近くで袋を受け取って」

「西地区の倉庫に持っていくだけだって…」


レンの手が震えていた。


カイルが言う。

「どうした?」


レンは眉を寄せる。

「マルクスの目を見てると」

「落ち着かない気持ちになって」

「気づいたら……」

「仕事受けてた」


アルヴィンは考える。

(マルクスの術か……?)

(精神操作の類かもしれない)


その時。


レオニスが口を開いた。

「レン」


静かな声。

「城下町の構造は知っているな?」


レンが頷く。


レオニスは続けた。

「中心に王城がある」

「そして」

「東地区の孤児院から西地区の倉庫街に行くには」

「王城の区画がある中心を通ることはできないから、

 北地区か南地区を経由していく必要がある」


 鋭い視線。

「どちらを通った?」


 レンは答えた。

「南地区です」

「リリアの店も南地区だし」

「道も慣れてるから」

「夜でも分かる」


レオニスは頷いた。

「そうだろう」

「北地区は貴族屋敷が多い」

「警備も厳しい」

「君がうろつけば捕まる」


レンが恐縮して言う。

「レオニス公爵閣下のおっしゃる通りです……」


その時。


レオニスの目が細くなる。

「だとすると」

「一つ気になる点がある」


アルヴィンが言う。

「レオニス」

「説明してくれ」


レオニスは静かに言った。

「レン、君は、南地区を経由して西地区に行ったと言った。

 西地区と南地区の間には川が流れている」

「昼間は小型商船しか来ない」

「だから橋が架かっている」

「だが――」


視線が鋭くなる。

「夜は橋が上がる」

「川は海につながっている」

「夜だけ大型の貿易船が海から川に通るためだ」


部屋が静まり返る。


レオニスは言った。

「レン」

「つまり、昨晩、君が西地区から南地区へ渡る時間、橋は架かっていない」


そして。

「君はどうやって川を渡った?」


レンは固まった。

「え……」


記憶を辿る。

(確かに……)

(どうやって……)


頭の奥がぼやける。


そして。

「……と、飛び越えました!」


カイルが叫ぶ。

「は!?」

「そんなわけないだろ!!」

「川幅五十メートルだぞ!!」

「嘘ならもっとマシな――」


だが。


レンの顔。

嘘を言っている顔ではない。


レンは呟く。

「そういえば……」

「俺」

「川を飛び越えた時」

「俺じゃなかったような……」


その瞬間。

レンの顔が――


一瞬だけ。

悪魔のように歪んだ。


「きゃっ!」

リリアが悲鳴を上げる。


しかし。

レンの顔はすぐ元に戻る。


レオニスが冷静に言う。

「この部屋を出た方がいい」

「皆さん」

「彼から離れてください」

「私がなんとかします」


アルヴィンが言う。

「俺も残る」


レオニスは肩をすくめた。

「好きにしてください」


そしてリリアを見る。

「リリアさん」

「あなたはすぐに出てください」

「危険です」


アルヴィンも言う。

「リリア」

「行け」


「レンをどうするつもり!?」

リリアが叫ぶ。


レオニスは静かに言った。

「彼はすでに、悪魔に使役されている可能性がある」

「五十メートルの跳躍が証拠です」


そして淡々と言う。

「つまり」

「討伐する可能性があります」


アルヴィンが言う。

「君は見ない方がいい」

「行け、リリア」


だが。


リリアは首を振った。

「嫌よ」


強い目。

「子供たちから、レンのことを託されてきたの」

「悪魔に使役されてるなら」


レオニスを見る。


「私の出番でしょ?レオニス」


レオニスが振り返る。

口元がわずかに笑う。


「ほう」

「ついに認めますか」

「私の前で」


低い声。

「神の末裔であると」


アルヴィンが怒る。

「ダメだ!」

「危険すぎる!」

「君は自分の能力を制御できるのか!?」

「できないだろう!」

「君自身、神の末裔なのか半信半疑のはずだ!」


リリアは静かに目を閉じた。

そして言う。


「できるかどうかじゃない」

「やるの」


そして、一呼吸置いてリリアは言った。


「レオニス」

「半信半疑ではあるけど…」

「私はどうやら神の末裔らしいのです」


そして。

少し笑って言った。


「もし私に何かあったら」

「アルヴィン」

「レオニス」

「……あとはお任せします」

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