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逃亡の始まり1

 石造りの家は狩りに出た時と変わらず、家の周りの柵や絡んだマタタビの木に慎ましく咲く白い花、玄関の扉の脇のベンチも隣に置かれた箒もそのままの素朴な風情で、背の高い木々に囲まれた中に静かにたたずんでいた。


 ヴィンセントとアレックスは、顔を見合わせると安心してほっと息をついた。


 次の瞬間、砕けるのではないかという勢いで入り口の扉が開き、中から人影が転がり出て来た。その人影は地面を転がると、直ぐに立ち上がった。

 人影が誰か気付いたアレックスの悲鳴のような声が響いた。


「ティム!」


 その声に振り向いたティムは、一瞬目を見開いて驚くが直ぐに、舌打ちをするかのような苦々しく険しい顔に変わった。

 いつも着ている柔らかで温かい毛織物のセーターは埃にまみれ、血がにじんでいた。どこか怪我をしているのだ。


「こっちに来るんじゃない。直ぐに逃げなさい」


 ティムの低く押し殺した声。

その言葉がアレックスの足を地面に縫い付けた。側に行って助けたい思いとの狭間でアレックスが迷っている間に、ヴィンセントは弓をつがえた。

 ティムの家の中から注意を逸らそうとしない様子に、ティムを襲った何者かがまだ家の中に居る事が察せられたからだ。


 そして、その判断は正しかった。


 開いたままの扉から屈強な男達が手に剣やナイフといった武器を持って現れ、あっと言う間もなくティムを取り囲んだ。

彼らのマントの裾は跳ねた泥で汚れ、乗馬用のブーツも泥だらけ。マントの下からは鎧が覗き、腰には武器が吊るされ一様に同じような装備、そして手に持った剣やナイフは曇りなく手入れの行き届いた鋭利な光を放つ。

 暖かな雰囲気の居間が不作法な男達に荒らされたであろう事を思うと、ヴィンセントの弓を持つ手に力が入る。


「動くな」


 低く落ち着いた、鋭い声音。

ヴィンセントの声にようやく二人に気が付いた男達は、小声で会話を交わし合い目的の物を見つけたと言わんばかりに口元を歪めて笑みを作った。


「長い金髪、緑の目の小僧。間違いないな」


 男達の様子に苛立ったアレックスが噛み付いた。


「何の事だよ」

「そこの金髪の小僧を引き渡して貰おう」


 質問には答えずに男達は傲慢に言い放つ。

 アレックスの眉間にしわが寄る。


「何だよそれ。それが人に物を頼む時の礼儀か? まあ、礼儀正しくされても引き渡したりしないけどな! その上、人の家でずいぶん物騒なモノを振り回した様子じゃないか」


 怒りを含んだアレックスの問いかけを、男達は鼻で笑う。


「その小僧には、先日崩御された我らが皇帝陛下への暗殺の容疑がかかっている。許しがたい大罪だ。大人しく来てもらおう」

「はぁ? 皇帝暗殺? あんたら、馬鹿だな! ここはルーザ国だぜ。いない皇帝をどうやって暗殺するっていうんだよ」

「我々はリディカ帝国の騎士だ。リディカ帝国の皇帝陛下にあだなした者を許すわけにいかない」

「だから、ここはルーザ国だって言ってるだろ。あんた達、他人の国でこんな事やって良いのかよ」


 騎士団の紋章を身に着けないようにして変装までしていたのに、少しアレックスがからかっただけで簡単に身元を言ってしまう辺り小物だ。

アレックスの指摘に男達が言い過ぎた事に気が付いた男達が顔を歪めた。


「悪いことだって言うのはわかっているんだよな? 騎士だったら紋章付の装備みせてみろよ。今、身に着けてないって事はルーザ国から許可降りてないよな? こそこそと人を勝手に攫って行こうとしているんだろう? それってなんていうか知っているか? 人攫いっていうんだよ! この犯罪者!」

「何だとこの小僧!我らを愚弄するか!」


 男達は再び激高し我を忘れた様子だった。

今後1回の更新毎の文字数を少なくしてもう少し回転よく更新できるようにしてみたいと思います。

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