20.魔道士くんの特訓
あれから勇者くんは三日眠ったままだ……。勇者くん……。
俺はそれはもうクラウスくんとハンナちゃんに責められるかと思ったが、二人はそんな素振りは見せない。
その様子にふと深夜の行軍の時を思い出した……多分二人も自分の実力が無いせいだと思ってるのだ……。
「……アインザー……レオンに変化はあるか?」
『んー……容態は安定しているけど、魔力が乱れているね……それが安定するまで起きないかも……俺が勇者くんの意識の無い所に無理矢理入ったからねー……』
「そうか……安定すれば起きるんだな……」
『……うん、そうだと思うよ……』
「あと、どれぐらい掛かる?」
『四、五日かなぁ……』
「なら、俺にちょっと付き合え……」
とクラウスくんは部屋から続くテラスへ向かおうとする。
『えっ……外ー?……視覚、聴覚諸々を広げるのもしんどいんだけどー……何をするのさー?』
「……魔術の訓練だ……お前は人間でいうとかなりの使い手だろう?教えてくれ……頼む」
とクラウスくんは頭を下げる。
『えっ……ちょっとちょっと……頭を上げてよー教えるからさー』
と少し焦る。クラウスくんが頭を下げるなんて……。ほらハンナちゃんも目を丸くしてるよ。
「本当か?……よろしく頼む」
『はいはーい……んじゃあこのままでは指南しにくいので……クラウスくん何か短剣とか持ってない?……年代が浅いやつ』
「ん?……これで良いか?」
とシンプルな短剣を俺の前へ差し出す。……まあこれならいけるだろう。
『そいやっ!!』
とその短剣に自分の魔力を分離して移す。魔力が移っているのがクラウスくん達にも見えている事だろう。
はっきり言おう……この作業は身を切り裂く様なものなので痛い……。だが、クラウスくんが成長しようとしているんだ……手を貸してあげないと……あいたたた……。
『成功だー!!』
と短剣から俺の声が上がる。
「……アインザーがもう一本?」
「どーなっているの?」
『『むふふ……それはねー……』』
と俺の声が二つ重なる。
「重なって聞こえにくい……どっちかで話せ」
『はいはい……』
と短剣の方から話す。
そして、今の状態の仕組みを簡潔に話した。核を少し分離して意思のない若い短剣に取り憑いたのだと。……それに伴う苦痛は伏せておいた。
『と、まあこれで俺は勇者くんが持つ本体とクラウスくんが持つ分体に同時に居れるってわけー。つまり二つの事を一つの頭で処理せねばならぬのだよ……めんどいわー』
「とか言いつつお前になら簡単なんだろ」
と白い目で見られる。
『何で、そーなるのー?!大変なのよ!!』
「ふーん?」
「まあまあ……クラウス……せっかくアインザーが大変な思いをして魔術を教えてくれるって言ってくれているんだから意地悪しないの」
「……分かってる……」
とハンナちゃんからそっぽを向く。弱いなぁ……。
『んじゃあ、クラウスくん……そろそろ魔術の特訓と行こうか?』
「ああ、頼む……」
『んじゃあ領主邸の庭でも借りよう……ここじゃ手狭だ』
「分かった……ハンナ……レオンを頼んだ」
「うん……頑張ってね」
「ああ」
それから領主邸の広い庭にて、クラウスくんに魔術の指南中である。
ちなみに分体の俺はクラウスくんが良く見える木に突き立てられている。……雑な扱いである。ぐすん。
自分なりの知識で魔術のスキルアップの方法をクラウスくんに懇切丁寧に説明をしていく。……結構難しいな。
『……つーわけだよ……クラウスくんやってみてー』
「ああ」
とクラウスくんは集中する。
そして俺が用意した氷の的へ風の刃を飛ばした。が、氷の的はびくともしない。
『まだまだだねぇー。俺の魔力に押し負けてる。ほれ、もう一回!てか、壊せるまでチャレンジ!チャレンジ!!』
クラウスくんは黙って再び集中する。そして風の刃を飛ばす。
それを何度も何度も繰り返した。
その間も適度に口を挟み指南していく。
「はぁ……はぁ……」
とクラウスくんはそろそろ魔力切れの様だ。だが、氷の的は依然として壊れていない。
『クラウスくーん、ちょっと休憩しようか?』
「いや……まだだ……」
と魔術を発動させようとするが、魔力切れで発動すらしなくなった。
『はい、終わりー。今日はここまでー!これ以上無理はいけませんっ!』
と的になっている氷を消す。
「くっそ……」
『とにかく今日は教えた内容を反芻してゆっくり休む事っ!先生からの教えですっ!』
「……分かった……指南感謝する……」
と渋々木に突き刺さってる俺の分体を引き抜き、領主邸の一室に戻った。
俺の分体はずっとクラウスくんに持っていてもらう事にした。いつでも指南しやすいし。
さて、クラウスくんねぇ……うーん……もっと上手く戦える方法があると思うんだけどなぁ……。
……ふーむ……明日までに考えておかなければ。




