神代柚葉
その女性、神代柚葉は突然やってきた。
高い身長に、映えるスタイル。深緑のジャケットに白いトップス、すらりとした脚を包む黒のパンツ。そして目元を隠す大きめのサングラス。飾り立てているわけではないのに、整った服装がよく似合っていた。黒髪は後ろでひとつにまとめられ、歩くたび、肩のあたりで束が揺れる。
片手にはスマートフォン。画面を確かめながら玄関をくぐった神代は、藤崎と目が合うと、にこやかに会釈した。
「こんにちは。少しお時間よろしいでしょうか」
「ご予約の方でしょうか。お名前をお伺いしても?」
その声に、前田夫妻の背中を見送っていた朝霧が驚いて、神代の方を見た。彼女は、スマホを持った手を軽く上げて応える。
「お久しぶりです、朝霧さん。来ちゃいました」
「神代さん!?どうしたんですか、こんなところまで」
「急に時間ができたんです。今、お話ししても大丈夫ですか?」
「そうですね、少し確認させてください」
神代はサングラスを外すと、スマホを持ったまま両手を合わせて、申し訳なさそうに笑いながら頭を下げた。けれど、その表情に遠慮はほとんどない。
朝霧は、少し困ったような表情を浮かべた後、藤崎に今日の予約が他にあるかを尋ねた。彼女は無言で手を小さく交差させ、朝霧を見上げる。どうやら、今日は先ほどの見学以外の予約はないらしい。
「え、ええ。どうぞ」
朝霧が応接間へ案内しようとすると、神代はふと玄関の外へ目を向けた。ちょうど、見学を終えた里奈と和彦の姿が、車へ向かっていくところだった。
「今の方たち、見学ですか?」
「ええ。SNSを見て来られたそうです」
「そうなんですね。繁盛してますか?」
「繁盛だなんて。来られたご遺族の方々には、真摯に対応していますよ」
神代の顔に、ぱっと明るい笑みが広がる。彼女は駆け寄るように、朝霧の隣へ並んだ。先ほどまでここにいた見学者とは違う、迷いのない足取りで、応接間へ向かっていく。
***
神代は、応接間のソファに座っても、まるで企業の面接にでも来ているかのように、ぴんと背筋を伸ばしている。仕事柄、不安な気持ちを抱えたお客様と相対することが多い朝霧は、彼女のその堂々たる佇まいに普段と違う違和感を覚えていた。
「それで、今日はどのようなご用件でしょうか」
「そうですね、ひとつは相談、ひとつはお願いごと、でしょうか。あとは単に、私が朝霧さんと話したかっただけです」
「相談とお願いごと、ですか」
そう言って、前のめりになる神代に合わせるように、朝霧は少し後ろへ仰け反った。圧すら感じる彼女のその明るさが、朝霧はどうも苦手だった。
「私の今の活動はご存知ですか?」
「いえ、テレビで時々見かける程度で、あまり詳細なことは把握していないですね、すみません」
「大丈夫ですよ!時折り朝霧さんの視界に入っているようでしたら、既に十分効果があるというものです」
「と、言いますと、テレビでの活動ですか?」
「テレビで活動している、というよりは、これまでSNS主体だった活動の場を、テレビやラジオ、新聞といったオールドメディアにも露出を増やし、認知される場を広げている、という感じですね」
「なるほど」
応接間の扉がノックされ、藤崎が静かに入室する。彼女は淹れたお茶をテーブルに置くと、二人から距離を取るように一歩下がった。それを見た朝霧が、席を詰め、空いたスペースをぽんぽんと叩く。藤崎は逡巡したのか、一息つく程度の間を置き、そこに座ると神代の方へと向き直った。
「私の立ち上げた宗教法人は、SNSで爆発的に認知を広げたことによって、かなり若い層に支持をいただいているというのが現状です。意図的にではありますが、運営に至っては、若い女性のみです。やはりSNSに頼っているままでは、教えを必要としている上の世代の方々には、活動が十分に届いていないと感じていたので、最近は試験的に活動の場を広げ、各媒体での発信の割合も変えているんです」
「それが、効果的だったと」
「そうなんです、と一概には言えませんね。正直、まだ分かりません。ただ、私の講演会などで見かけるお客様の層に、ばらつきは出てきています。尤も、SNSに疎い朝霧さんの目にも私の姿が留まったのであれば、効果は抜群なのかもしれませんね」
神代はわざと得意げな顔を作り、茶化して見せた。
「それはそれは」
「冗談です。でも、朝霧さんに見てもらえていたことは、素直に嬉しいです」
神代は笑って、お茶に手を伸ばす。口をつける前に、藤崎へ軽く会釈をした。
「それで、相談というのは?」
「そうですね、聞いてもらいたい愚痴も含めれば、いくらでもありますが……」
神代のその一言を聞いた朝霧の表情が少し引きつり、顎を引いたのを藤崎は見逃さなかった。
「相談したい内容としては、木葬の認知をどうやって広げていくか、ですね」
「……?ご自身の巡命教ではなく、木葬を、ですか?」
朝霧の顔から、いつもの微笑みが少し消えた。
「そうです!木葬は、私の教えをまさに体現したかのようなものだったんです!これを初めて知った時は、本当に衝撃が走りました……。そしてそれを開発したあなたに出会った時の私の心情、理解できますか!?」
「いえ、あまり……それと近いです」
神代はソファから立ち上がると、目の前のローテーブルに手をつき、朝霧に顔を近付けた。朝霧の表情は変わらない。しかし、彼の膝は少し震えている。
「つまり!巡命教と共に、木葬を世間に広めることは、私の天命!という訳です」
「仰っていることは分かりました。ですがその前に、あなたは木葬というものがどういうものだとお考えですか?」
「どういうものか、ですか」
神代は、テーブルについていた手をゆっくりと離し、ソファに座り直した。問いに戸惑った様子はない。自分の考えをどう言葉にするか、確かめるように朝霧を見つめている。




