思想
朝霧は組んだ手を膝の上に置いて、真剣な表情で神代へと向き直った。神代は、前のめりになった姿勢を少し戻すと、問いの意味を確かめるように、朝霧を見つめる。
「亡くなった方の身体を土に還し、その土から木を育てる葬送です。人の命が途切れて終わるのではなく、形を変えて次へ巡っていく。木葬は、その巡りを目に見える形にするものだと認識しています」
「それが、神代さんにとっての木葬なんですね」
「はい。だからこそ、私の教えを体現していると思うんです」
自信に満ち溢れた表情で真っ直ぐ朝霧の目を見て、神代は答える。朝霧は、目線を神代から外し、話し始めた。
「私にとって木葬は、葬送の手段の一つです。木を植えることに意味を感じる方もいれば、先祖代々の墓に入りたい方もいる。遺された方の希望もそれぞれです。どの方法が優れているかを決めるためではなく、本人や家族が選べる道を増やすために、ここを作りました」
「なるほど。でも、それも知られていなければ選べないのではないですか?昔から有る方法は、選ぶかどうかを考える前から誰もが知っている。まだ木葬は、選択肢として並ぶところまで届いていないんです」
朝霧はすぐには答えなかった。神代の言葉を受け止めるように、組んだ指へ目を落とす。
「知ってもらうことは必要です。事実、神代さんの活動のおかげで、お問い合わせを沢山いただけるようになりました。ただ、木葬をこれまでの葬送とは異なる特別なものとして広めることは、これから葬送を選ぶ人に間違った認識を植え付けることになってしまうかもしれません」
「私は、ほかの葬送を否定したいわけではありませんよ。木葬の価値を伝えたいだけなんです。良いと信じているものを、良いと語る。それまで控える必要がありますか?」
「控える必要があるかどうかではありません。ただ、神代さんの教えにとって価値があることと、誰にとっても最善であることは、同じではないということは分かって欲しいんです」
「どうしてですか?遍く人々に木葬を薦めるべきだとは思わないのですか?」
「えぇ、そうです」
朝霧は、神代の目を見てそう言った。真っ向から意見を否定され、その意図を探るように神代は朝霧を見返す。だが朝霧は、ゆっくりとお茶に口をつけて、静かに置いてから答える。
「木葬を選ぶ人が増えることは、私も望んでいます。ただ、『木葬こそが理想の葬送だ』と伝われば、選ばなかった人が、自分達は正しくない方法を選んでしまったのではないか、と感じるかもしれません」
神代の表情から、僅かに自信が薄れた。
「私は、そんな風に伝えているつもりはありません」
「分かっています。神代さんが、他の葬送を選んだ人を責めるつもりなどないことは。ただ、言葉は、語った人の思いとは別の形で届くことがあります。木葬を選ばなかった人に、別の選択をしたことへの後悔まで抱かせてしまう。そういう広まり方は、望んでいません」
朝霧は神代の視線を受け止め、少し間を置いてから続けた。
「木葬を選んだ人が、何を願ってその道を選んだのか。それを伝えてもらうことは、ありがたいと思っています。ただ、誰にとっても最善だと語るのではなく、木葬を望む人にとって大切な選択肢なのだと、伝えて欲しいんです」
「それだけで、木葬を知らない人に届くでしょうか」
朝霧はすぐには答えず、問いに答える言葉を探すように、湯呑みを膝に置いて両手で包んだ。お茶の水面に朝霧の顔が映り、揺れている。
「届かない人もいるでしょう。木葬を知らないまま、ほかに選びようがないと思っていた人が、後になって悔いることもある。私の慎重さが、そういう機会を遠ざけてしまう可能性はあります」
「では、知ってもらうことが大切だという点は、同じですね」
神代は朝霧の言葉に同意するように頷く。だが朝霧は、表情を変えずに続けた。
「そうですね。ですがその方法は、やはり慎重に考えたいです。実際に利用した方の声や、受け入れ条件、現状も含めて、事実に即した情報が広まるべきだと思います」
「それは……」
「それに、知った人が増えても、私どもで受け入れられる人数には限りがあります。期待だけが膨らみ、実際には利用できなかったとき、悲しむのは新たな利用者候補です。あと、木葬はまだ、社会の制度に正しく組み込まれていない。現状、正式には国の認可も下りていないものを薦めるのは、神代さんにとっても危ういのではありませんか」
「……その懸念はもっともです。受け入れ先が限られているのに、希望だけを持たせてしまえば、期待した方を失望させることになる。私も、認可の問題を伏せて、今すぐ利用できるかのように薦めるつもりはありません」
神代は、朝霧の指摘を受け止めるように一度俯いた。
「神代さんの意図がそうであっても、聞いた人が『自分もすぐに選べる』と思うことはあります」
「ええ。私の言葉が、意図した通りに届くとは限りませんね」
神代はそこで一度、言葉を切り、顔を上げて朝霧を見る。
「ただ、木葬を知ってもらうことと、木葬自体がすぐに受け入れられると約束することは別です。私が目指しているのは、利用希望者だけを増やすことではありません。木葬を社会の選択肢として認めてもらい、受け入れる場所や制度を整えていくことです」
「制度を整えていくのは確かに急務です。ただ、制度が整う前に葬送を決める方にとって、将来選べるようになる木葬は、今の選択肢ではありません。木葬を知って希望を持ったあとで、現状では選べないと知る。その差が私は心配です」
「認可が下りていないからこそ、その現状も含めて伝える必要があると思います。今は何ができて、何ができないのか。なぜ制度が整っていないのか。そこを明らかにせず、木葬の希望だけを語るのなら、朝霧さんの言う通り、期待を膨らませるだけになってしまうでしょう」
神代は手を広げて、訴えかけるように朝霧に言葉を投げかける。
「でも、受け入れられる人数が限られているから、認可がないからと、木葬を語らないままでは、制度を整える必要があることも社会に伝わりません。私は、今すぐ誰もが選べると言いたいのではありません。いつか、望む人が現実に選べるようになるために、木葬の意味と、今の課題の両方を伝えたいんです」
熱意のある神代の言葉に、朝霧は彼女が木葬を社会に根づかせたいと本気で願っていると、改めて感じた。




