第36話
穏やかな日曜日の朝だった。
陽光があかりの家の窓辺を照らす中、玄関のチャイムが軽やかに鳴った。
あかりは立ち上がり、ドアを開けた。
そこにはラビの姿があった。
「おはようございます、あかり様……お迎えに上がりました」
家の前にいつもの黒塗りリムジンが静かに停まり、あかりはメイドを睨んでため息をついた。
「また、このパターン……久しぶりね。着替えてくるわ」
ラビは優雅に微笑んだ。
「お着替えはご用意しております……こちらへどうぞ」
リムジンのドアを開け、あかりを誘導した。
車内はクッションとほのかな花の香りが漂い、あかりが座った。
メイドがバッグから丁寧に折り畳まれた浴衣を取り出した。
深紅の地に金糸の花柄が優雅に散りばめられた一着。
「こちらをご着用くださいませ。あかり様にぴったりかと」
あかりの目が固まった。
「お祭り……に行くの? 浴衣って……」
ラビは瞳を細めた。
「花火はお好きですか?」
リムジンは街を抜け、山道を登った。
窓外の景色が緑の木立から街の灯りが遠くに瞬く高台へ変わった。
やがて到着したのは山の上の老舗旅館だった。
「ラビラビ旅館」
月兎人が買取運営する超高級施設で、荘厳な佇まい。
木造の母屋が山肌に溶け込み、瓦屋根が朝霧に濡れていた。
本日は貸し切り運営で、静かな風情が特別な一日を予感させた。
旅館の玄関で、すでにみんなが待っていた。
ゆう、みお、ゆい、りん、ひより。
お世話係の兎メイドたちが倍の数で控え、耳をピンと立てて一礼した。
各々が色味豊かな浴衣を纏い、髪型も結い上げられていた──まるで、旅館の庭園が一夜にして花畑に変わったかのよう。
みおは鮮やかな青い浴衣に短髪をシンプルなリボンでまとめ、活発さが海のような爽やかさを放っていた。
袖が短めに折られ、逞しい腕のラインが微かに浮かび上がり、歩くたびに帯の青い絹が軽やかに揺れ、まるで夏の海辺を駆け抜ける波のように力強く、しかし優しく感じられた。
ゆいはピンクの浴衣に栗毛のヘアをゆるやかなアップにし、母性あふれる曲線が花びらのように揺れていた。
生地が体に寄り添うように沈み込み、胸元から腰にかけての豊かな波打ちが歩くたびに静かな誘惑を湛え、帯のピンクの絹が優美な結び目で背中を飾っていた。
りんは黒い浴衣に銀髪を後ろで軽くまとめ、外はねが墨絵のようにシャープに際立っていた。
黒い生地が細身の体をすっきりと包み込み、腰から下のしなやかなラインが霧の中でシャープに浮かび上がり、帯の銀糸が朝陽にきらめいて、まるで夜の銀河を切り取ったような神秘的な美しさを湛えていた。
ひよりは淡い水色の浴衣におさげを三つ編み風に結い、低身長の体に豊満な胸元が包まれ、眼鏡の奥の瞳が恥ずかしげに輝いていた。
水色が彼女の白い肌に溶け込むように優しく、袖口が小さな手首を覆うたび布地が柔らかく波打ち、帯の結び目が背中で可愛らしく膨らんでいた。
ゆうは紺色の浴衣に髪を後ろで一つ結びにし、瞳が朝陽に映えていた。
紺が白銀の髪をより鮮やかに引き立て、首筋から肩にかけてのラインが霧の中で浮かび上がり、帯の銀糸が朝陽にきらめいて、まるで月の光を纏った王子のように気品を湛えていた。
兎メイドたちがそっとお茶を運び、庭園の石畳を踏む音が、まるで小さな祭りの前奏曲のように軽やかに響いた。
ゆうの瞳がみんなを巡り、笑みが広がった。
あかりが浴衣姿で降り立ち、深紅の金糸花柄がポニーテールを引き立て、引き締まった体型が鮮やかに映えていた。
深紅が彼女の黒髪に溶け込むように優しく、帯の金糸が腰のくびれを強調して、まるで炎のような情熱を秘めた花のように、庭園の空気を熱く染め上げていた。
ゆうは瞳をぱっと輝かせた。
「あかりさん、おはようございます……! 浴衣似合ってます。綺麗です……」
「おはよう……みんなも似合ってるわね。今日は何するの?……急に浴衣で旅館って」
少年はみんなの輪に近づき、瞳をきらきらさせた。
「皆さんと夏の思い出が作りたくて……花火を見に来ました!」
あかりは山を見上げた。
「山の上で花火……? あんた相変わらずスケールでかいわね……」
ゆうはにこりと笑った。
「はい! 夜に打ち上げてもらうようにお願いしています。みんなの笑顔が見たくて……楽しみにしていてくださいね!」
袖を軽く払い、興奮を抑えきれない様子だった。
みおが拳を握った。
「おー、花火か! 楽しみだぜ!」
ゆいが微笑んだ。
「まあまあ、ゆうくんったらロマンチックね」
りんは銀髪を耳にかけた。
「……景色、良さそうね」
ひよりは眼鏡を押し上げた。
「花火……楽しみです……」
みおが裾を軽く持ち上げ声を上げた。
「旅館入ろーぜ! お腹すいたー!」
あかりは天を仰ぎ、ため息をついた。
「みんなも慣れてきたなー……」
ぼやきつつ、みんなの輪に自然と溶け込んだ。
おかみさんが玄関に立ち、優雅に一礼した。
「ようこそ、ラビラビ旅館へ……皆様、存分におくつろぎくださいませ」
部屋に案内され、そこは巨大スイートルームだった。
畳の広間が広がり、中央にベッドが六つ並べられ、障子越しの景色が山の稜線を望んでいた。
みおが月見台に出て外を眺めた。
「空気が美味しー! 海より新鮮だぜ!」
りんは窓辺に立った。
「凄い景色……この光の加減、絵に描きたいわ」
ゆいとひよりは手をつなぎ、外を眺めた。
「すごいわねー……ひよりちゃん、怖くない?」
ゆいが尋ねた。
ひよりは眼鏡を押し上げた。
「ゆい先輩と一緒なら……大丈夫です……!」
そんな中あかりはベッドの数を数え、ラビに視線を飛ばした。
「ラビ……あんたここに寝るのよね? ベッド六つあるけど……」
メイドは優雅に微笑んだ。
「……ゆう様もこちらで就寝なさる予定です」
あかりのポニーテールがぴんと立った。
「えっ……!?」
みおが拳を握った。
「みんなでお泊りか! 楽しそうだなー! 夜通しゲームしようぜ!」
ゆいが笑った。
「みんなでおしゃべりするの楽しみねぇ……」
あかりは頭を抱えた。
「もう……何も考えないことにするわ……」
ベッドに腰を下ろし、裾を直した。
みんなの笑いが部屋を温かく満たした。
ラビはあかりに囁き、青い瞳を細めた。
「安心して下さい……我々も治外法権ではありません。皆様が望まれない形での結ばれ方はしません。監視しておりますので……」
あかりは囁き返した。
「ならもう一部屋予約取れたんじゃないの……?」
メイドは微かに微笑んだ。
「一応お伝えしておきますが……月兎人の出産適齢期は九歳からです。皆様も慣れておくに越したことはないとは思いますよ? いつ求められるかは……分かりませんので」
言葉に悪戯っぽい響きが混じった。
あかりの顔がぱっと赤くなった。
「出産って……!? 何言ってんのよ、バカ!」
「ふふふ……冗談ですよ」
ラビはくすくす笑い、部屋を後にした。




