表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うさぎ君は口寂しい  作者: 川合 佑樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/38

第33話

 新体育館に向かう廊下は、文化祭の熱気あふれる喧騒に満ちていた。

 遠くから聞こえるステージの歓声と屋台の呼び込みの声が混じり、足元に落ちたチラシが風に舞った。

 あかりはゆうの隣を歩きながらラビに視線を向けた。

「他の皆は……?」

 メイドは一礼した。

「みなさん、すでに新体育館に集まっておりますわ」

 メイド服の裾が廊下の風に軽く翻った。

 ひよりはその場を離れようとした。

「では、私は実行委員の仕事がありますので……」

 あかりは手を振った。

「またね、ひよりちゃん。実行委員がんばって!」

 ゆうは瞳を細め、伝えた。

「ひよりさん、ありがとうございます!」

 ひよりは少年の手をそっと握った。

「ゆうくん……頑張ってくださいね」

 瞳をまっすぐに彼に合わせ、頰を少し赤らめた。

 低身長の体が勇気を振り絞るように見えた。

「はい!」

 少年は頷き、こぶしを軽く握った。

 ひよりは去っていった。


 新体育館はクラスライブイベントで大盛り上がりだった。

 特設ステージの照明がカラフルに回転し、各教室の代表組が歌やダンスを披露した。

 空気は汗と興奮の熱気で満ち、床が振動するほどの拍手が館内にこだました。

 ラビが最前席を案内すると、すでにそこにはみお、ゆい、りんが座っていた。

「おっ、遅かったな!」

 みおは短髪を汗で濡らし、拳を振っていた。

 あかりは座った。

「あんた、元気そうね……」

 ゆうは瞳を心配げに巡らせた。

「皆さん、大丈夫でしたか……? 怖かったですよね……」

 ゆいがくすっと笑った。

「心配かけちゃったわね……でも、ゆうくんが守ってくれたおかげで、楽しかったわよ」

 声に優しさが滲んだ。

 ラビは一礼し席を立った。

「では、私は外でお待ちしておりますわ……。ゆう様、ステージをお楽しみくださいませ」

 五人は並んで座り、ステージの歌とダンスに見入り、ポップなリズムに体を揺らして歓声に混じった。

 いくつかの演目が過ぎ、客席の熱気が頂点に達した頃、少年が突然立ち上がった。

 瞳を輝かせ、あかりに言った。

「あかりさん、お手洗いに行ってきますね……すぐ戻ります!」

 執事服の裾を軽く払って足早に体育館を出ていった。

 あかりは手を振った。

「行ってらっしゃい……変なヤツに絡まれないようにね」

「ゆう、急げよー!」

 みおが声をかけ、ゆいとりんが微笑んだ中、ステージの照明が暗転した。

 演目が終わり、最後のクラス演目──あかりたちのクラスの番──になった。

 クラスメイトのバンドがステージに上がり、ギターの歪んだ音が響き、ドラムのビートが館を震わせた。

 まるでプロが教えていたのではないかと思われるほどのクオリティで、ボーカルのシャウトが空気を切り裂き、ベースの低音が体を振るわせ、キーボードのメロディが華やかに絡んだ。

 五人は体を揺らし盛り上がった。

 一曲目が終わった。

 拍手が沸き起こる中、ステージが再び暗転しスポットライトがぽつんと灯った。

 そこに一人の少年の姿があり、ゆうの燕尾服が照明に妖しく輝いた。

 ステージの煙に包まれ、マイクスタンドを握る手が興奮で震えていた。

 あかりは立ち上がった。

「あんた、何してんの……!?」

 いつの間にか横に座っていたラビが肩に手を置いて静止した。

「あかり様……ゆう様の想い、受け取ってあげて下さいませ」

 メイドの青い瞳が穏やかだが熱を帯びて輝き、少年のステージを見守った。

 イントロが始まり、重低音のベースが響き、ドラムのビートが心臓を叩き、ギターのディストーションが空気を切り裂いた。

 ゆうはスタンドマイクを握り、客席をなでるように視線を巡らせた。

 ゆっくりと片手で銀色の髪をかき上げ、低く熱く語り始めた。

「僕は月からこの地球にやって来ました……そして短い間ですが沢山の人と出会い支えられ、今はこうしてここに立っています。それは僕を信じ支え慕ってくれた方々のおかげです。今日は、そんなあなたのために……歌います」

 照明が爆発的に広がり、ド派手な演出が始まった。

 ステージ後方から炎のエフェクトが噴き出し、霧のスモークが少年を包んだ。

 バックバンドの生演奏が轟き、歌が始まった。


 銀色の欠片 砕け散る我ら 月面を眺める 蜃気楼の晴れ間

 迎えに行く独りで 夢中になる誰かへ 合わせるぜ気持ちを 金色のアテナへ

 君に近づいて 明日を探せ


 心臓が響く 緊張が暴く この渇く胸を リンゴンと鳴らす

 聞いてくれないか 真相を話す 秘密の扉 開けてやるぜ CLAP CLAP


 愛を求め 迷子の君と俺 月影に踊る 神をも超え

 ナイトになるため あなたの下へ 出会いの花が咲き 蝶と舞え


 淡く甘く揺れる気持ち 代わる代わる寄り添う命

 恋の囁きは既に 温もりで溶かす 虜の輝き 混ざる宵の祈り


 流れ星が瞬いてる 朝の陽ざしが昇らぬように

 名前呼び体が癒える ハートキラリ王子様

 鼓動、輪廻を数え 叫べ運べ 事の終わり 抱き締め夜な惚れ

 この新世界 心の愛 敢えて描き示すぜ


 曲の合間、プロのダンサー集団が現れ、十人以上の洗練されたボディがステージを埋め尽くした。

 ゆうは片手で蝶ネクタイを緩め、胸元のボタンを二つ外し、燕尾服の襟を軽く開いて息を整えた。

 少年を中心にブレイクダンスとコンテンポラリーが融合し、彼の体がスピンし、ジャンプした。

 ダンサーたちに囲まれながら流れるようなムーンウォークとロックステップを披露し、LEDの光が体をトレースした。

 炎のエフェクトが足元で爆ぜ、ゆうの瞳が客席を射抜いた。

 汗が髪を濡らした。

 ダンスの頂点で少年がジャンプし、ダンサーたちが円を描いて完璧なシンクロで愛のポーズを決めると、女子高生たちが悲鳴のような歓声を上げ、スマホのフラッシュが嵐のように光った。

 ラビは客席の隅で青い瞳に涙を溜め、見つめた。

 一筋の涙が頰を伝い、袖でそっと拭った。

「ゆう様……立派に……」

 少年の成長がメイドの忠誠を満たした。


 笑う騒ぐ触れる瞳 絡む叶う飛び込む独り

 恋の戦いは素敵 うつろい蹴とばす 年頃儚い ドキドキ 時々 トキメキ


 鳴らせ餅まだまだ微熱 山の東が夜空のように

 名前呼びまだまだ魅せる ハートキラリ王子様


 鼓動、新月を超え 垣根を飛べ 心の旅 舞姫空溶け

 この銀世界 灯した出会い はち切れる愛してる


 曲の最後にゆうはマイクを握り、息を弾ませ、客席をなでるように言った。

「みなさん……愛してます!」

 ウインクを決めると、ステージが暗転した。

 次の瞬間、会場から盛大な拍手が溢れ出し、サイリウムの海が揺れ、歓声が天井を震わせた。

「ゆうくん!」

「王子様ー!」

 プロの照明が再び灯り、少年のシルエットが浮かび上がると、みお、ゆい、りんがあかりの方を向き、みおがニヤリと笑った。

「さー、どうすんだ?」

 ゆいが微笑んだ。

「あかりちゃん……幸せ者ね」

 りんが銀髪を耳にかけた。

「さすがに、私でもわかるわ……ゆうの想い」

 瞳に熱が宿った。

 あかりは腕を組んだ。

「何よ……みんな!」

 頰が熱く、瞳をステージに固定した。

 少年の歌声が心に響き、ダンスの余韻が体を震わせた。

「あー、もう……わかったわよ……」

 ラビはほほ笑み、青い瞳があかりを包んだ。

 遠くからゆうとひよりがやってきて、少年の燕尾服が汗で光り、瞳が期待で輝いた。

 ゆうが目を輝かせながら言った。

「あかりさん……どうでしたか?」

 あかりは頭を掻き、あーうー言いながら上を見たり下を見たりした末に、覚悟を決め少年を見つめた。

「勝負……してあげるわよ!」

 ゆうの瞳がぱっと輝き、満面の笑みを浮かべた。

「あかりさん……! ありがとうございます! 絶対負けませんよ!」

 周りの観客に紛れていた兎メイドたちが立ち上がり、大きな拍手と喝采が生まれ、つられて女子高生たちも立ち上がって拍手の渦が広がった。

「がんばれよー!」

「ゆうくん、負けるなー!」

 ステージの照明が二人のシルエットを照らした。

 ラビは微笑んだ。

「それでは、お二人でごゆるりと……」

 みおがあかりの肩を叩いた。

「楽しみにしてるぜ、あかり!」

 ゆいがゆうにガッツポーズをした。

「がんばってね、ゆうくん!」

 りんが銀髪を耳にかけた。

「ゆうなら、大丈夫……」

 ひよりが小さな拳を握った。

「ふぁっ、ふぁいと……!」

 みんなが温かな視線を送り、去っていった。

「ちょっと、待って……!」

 言いかけたが、ゆうがあかりの手を握り、瞳をまっすぐに据えた。

「あかりさん……文化祭の最後、キャンプファイヤー……行きましょう」

 衣装の袖が彼女の指に絡み、夕陽が二人の影を長く伸ばした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ