第31話
文化祭の午後だった。
特設ステージは大盛況で、女性漫才コンビの軽快なツッコミが来場者の笑いを誘い、客席は女子高生たちの黄色い歓声で埋め尽くされた。
ステージ上では、ツッコミ役のショートカットの先輩がボケ役のロングヘア女子に優しく詰め寄っていた。
「結局、痩せるためにどう頑張ったんや! 皆それが気になってんねん!」
「ここだけの話……風邪ですねん」
「めっちゃ不健康やないか! もうええわ。どうも、ありがとうございましたー!」
客席から温かな笑いと拍手が沸き起こり、コンビの優しい掛け合いがテント全体をほんわかした空気に変え、みんなの肩が自然と揺れた。
続いて有名アイドルのライブだった。
キラキラの衣装でステージを駆け回る彼女の歌声がスピーカーから溢れ、みんなのスマホが一斉にライトを灯した。
ピンクのフリルが翻る衣装を纏ったアイドルが、マイクを握りしめ、息もつかせぬダンスで客席を煽った。
「みんなー! 文化祭はまだまだ終わらないよ! キラキラの夢を掴んで、飛ぼう!」
アップテンポのビートが響き、バックダンサーたちがシンクロした振り付けでステージを埋め尽くす。
歌詞が会場に響き渡った──
「君をロックオン、その瞳に導かれて! 恋の魔法で、夢の花火が弾けるよ! キスだけじゃ物足りない、ハートビートのシグナルバッキュン!」
彼女のハイトーンボーカルが空気を震わせ、サイリウムの海が波のように揺れ、女子高生たちの「きゃー!」という悲鳴のような歓声がテントを揺らした。
汗で光る額、息を切らした笑顔──アイドルの全力パフォーマンスが、みんなの胸を熱く高鳴らせ、文化祭の興奮を最高潮に押し上げた。
ゆう、あかり、みお、ゆい、りん、ラビの六人は、特別に用意されたステージ正面の席に座っていた。
少年の瞳が興奮で輝いた。
「わぁ……派手ですねぇ」
あかりがリズムに合わせて揺れた。
「みんなかわいいわねぇ」
みおは拳を握り叫んだ。
「すげえ! キラキラしてるなぁ!」
ゆいは呟いた。
「みんな、楽しそうね」
りんは拍手した。
ラビはジュースを配った。
時間が経ち、ステージの熱気が体に染みつく頃だった。
みおが息を弾ませて立ち上がった。
「次、何回ろうか?」
するとラビが指差した。
「あちらはいかがでしょう?」
旧体育館だった。
校舎の裏手で、文化祭の華やかさから少し離れた薄暗い存在感を放っていた。
入り口の看板が血文字風のフォントでデカデカと書かれていた。
「ラビラビ絶凶戦慄怨霊咽び迷宮 ~呪いの死霊廃校座敷からの顔はぎ招待状~」
骸骨のイラストが不気味に笑い、見た目の凄まじい立て付けだった。
廃墟風の入口に蜘蛛の巣が張られ、血しぶきのスプレーが壁を汚していた。
それに反して誰も並んでおらず、入り口の風鈴が風もないのにカラン……と不気味に鳴った。
その空虚さがかえって恐怖を際立たせ、夕陽の影が看板の文字を血のように赤く染めていた。
あかりは看板を睨んだ。
「とりあえず怖いもの詰め込みましたみたいな酷い名前ね。……『顔はぎ招待状』って、何よ」
ラビは一礼した。
「こちら、皆様に楽しんでいただこうと思いまして……私共の方で、用意させていただきました」
その言葉にみんなの視線が看板に集中し、背筋に冷たいものが走った。
少年は瞳を輝かせ、執事服の袖を払ってワクワクと入り口に近づいた。
「そうなんだ! 楽しそうですね……行ってみましょう!」
無邪気な笑みが浮かんだ──が、その瞬間、彼が感じたことのないような圧力が両腕にかかり、あかり、みお、ゆい、りんががっしりと少年の腕を掴んだ。
彼女たちが引きずられる形で一歩進んだ。
「あれ……?」
少年は左右を見渡した。
あかりのポニーテールが震えた。
「やだやだやだやだやだやだやだ」
みおの短髪が固まった。
「俺は別に怖くはないんだけどな! 別にな!」
ゆいの栗毛ヘアが肩を覆った。
「その……こういうのは……その」
りんの銀髪の外はねがぴんと立った。
「科学的に考えて幽霊などはいない。だがこの行動は合理的な判断であると愚考する」
全員目をつぶり、少し体を震わせ息遣いが荒かった。
少年は瞳を細め、尋ねた。
「もしかして……怖いの、苦手ですか?」
みんなが体をぎゅうっと彼に押しつけ、頭を縦にぶんぶんと振った。
熱い衝撃が走り、ぽやんっと響くと兎へ──瞳を大きく見開き、状況を把握しようとした。
その場にへたり込んだ四人の真ん中で、兎状態の少年が耳をぺたんと倒した。
「どうしますか……? やめますか? 皆さんが嫌でしたら僕は構いませんので」
ラビは微笑んだ。
「強制ではありません。無理はなされない方がよろしいかと……ゆう様も、皆様の安全が第一ですので」
しかし少年の瞳はウルウルとしていた。
行きたいなぁという純粋な期待を宿していた。
四人はそれを見て互いに視線を交わし、覚悟を決めた。
あかりが少年を抱き上げ、立ち上がった。
「いくわよ……!」
みおが彼の服を手に立ち上がった。
あかりの腕にしがみつきながら進んだ。
「お、おう……俺に任せておけ! ……怖くなんて無いんだからなっ!」
ゆいが、あかりの背中を押した。
「みんなでがんばりましょう……!」
りんはクールな表情とは裏腹に脚を少しがくがくとさせながら前に進んだ。
「問題ない……耐えてみせる」
ラビはそれを見て微笑んだ。
「行ってらっしゃいませ……お気をつけて」
五人は震える足取りで暗い入口へ消えた。




