第27話
日が暮れ、浜辺に夕闇が訪れる頃──ラビの指揮するメイドチームが、バーベキューセットを展開していた。
イタリア製のガスグリルが鎮座し、自動温度制御で完璧な火力を保ち、煙を最小限に抑えるフィルター付きのフードが潮風に負けず、食材の香りを純粋に運ぶ。
テーブルは大理石調のポータブルユニットで、銀のトレイに並ぶのは最高ランクの和牛ステーキ、ジューシーなシーフードの串焼き、新鮮な野菜のグリル──すべて空輸された最高級素材だ。
サイドには有機野菜のサラダ、トロピカルフルーツの盛り合わせ、冷えたノンアルコールスパークリングワインやトロピカルジュースが並び、専用クーラーボックスが氷点下の完璧な温度を維持していた。
メイドたちが影のように動き回り、火の加減を調整し、皿を素早く交換──すべてがシームレスで、まるで高級リゾートのプライベートディナーそのものだった。
火がパチパチと鳴り、グリルされた野菜の焦げ香りが潮風に混じり、鮮やかな緑と黄金色の色合いがランタンの光にきらめいて、誰もが鼻腔をくすぐる誘惑を放っていた。
メイドの一人がトレイを運び、焼き立ての料理をみんなの皿に丁寧に盛りつけた──熱々のステーキが肉汁を滴らせ、串焼きの野菜が湯気を立て、コーンの粒が黄金色に輝く。
「皆様、どうぞお召し上がりください……お好みで調整いたします」
ラビの声が優しく響き、メイドたちが次々と追加の串やステーキを運び、テーブルを華やかに彩った。
みんなで串を回し、ジューシーなきのこやピーマンのグリル、コーンの串を丁寧に火入れし、グラスに注がれた冷えたジュース──パイナップルとマンゴーのトロピカルブレンドが、炭酸の泡と共に爽やかな酸味を運ぶ──を傾けながら、笑い声が星空に溶けていった。
夜の海面が黒く輝き、遠くの水平線に白い泡の波が寄せては返し、炎の揺らめきがみんなの顔を照らしていた。
みおが、メイドから受け取ったばかりのステーキをフォークで突き刺し、熱々の肉汁が滴るのを気にせず豪快に頰張った。
脂の甘みが舌に広がり、ジューシーな食感が口いっぱいに弾け、満足げに目を細めて叫んだ。
「肉、うめえ! この和牛、溶けるみたいだぜ! ラビさん、最高の仕込みありがとう! 次もどんどん持ってきてくれよ、みんな食え食え!」
メイドが素早く次のステーキをトレイに盛り、みおの皿に滑らせるように置いた──その流れが自然で、みおは笑いながらフォークを伸ばした。
ゆいは、メイドが運んできた串に刺した新鮮なコーンの粒を丁寧に剥き、ゆうの皿にそっと乗せた。
火の通った粒が輝き、バターの風味がほのかに香る。
少年の瞳を見つめ、穏やかな笑みを浮かべて囁くように言った。
「ふふ、ゆうくん、もっと食べて。コーンおいしいわよ? ……ほら、熱いうちに」
りんは、メイドが調整したグリルの火をじっと見つめ、温度計を軽く確認しながら、完璧な焼き加減の野菜串を皿に並べた。
火の揺らめきが彼女の銀髪を金色に染め、クールな視線に微かな満足の色が浮かんだ。
串を回す仕草は精密で、まるでアート作品を仕上げるように。
「火の加減、完璧ね。このグリル、自動制御とはいえ微調整が命……野菜の甘みが引き立ってるわ」
ひよりは、メイドから受け取った串に刺したアスパラガスに息を吹きかけた。
熱い串を慎重に口に運び、シャキッとした食感に目を細め、息を吐いた。
「熱い……でもおいしい……! アスパラ、こんなに甘くなるんですね……」
あかりは、メイドがゆうの皿に盛った野菜串の端をフォークで切り分け、一口かじって目を丸くした。
意外なジューシーさに驚きを隠せない。
少年の向かいに座り、ツンとした視線を少し緩めて、素直に褒めた。
「意外と上手いじゃない……この焼き加減、プロみたいよ。火加減、完璧ね。次はきのこももっと焼いてよ」
メイドがあかりの言葉に微笑み、次のきのこ串を素早く焼き上げてトレイに並べ、みんなの皿に回した──あかりはそれをゆうの皿に取り分け、互いの視線を交わした。
彼はみんなの輪の中心で、瞳を輝かせた。
炎の光が赤い瞳を宝石のようにきらめかせ、みんなの笑顔が一つ一つを映し、心の奥で温かな喜びが膨らむ。
潮風が浴衣の袖を揺らし、星空の下で、みんなの声が重なるたび、ゆうの胸が高鳴った──この瞬間が、永遠に続けばいいのに。
そんな中りんが少年に近づいた。
瞳を真剣にした。
「ゆう……私と勝負しよう」
あかりが立ち上がった。
「ちょっと、あんた……今、バーベキュー中よ!?」
りんは目であかりを静止し、みんなの視線を集めてゆうを見つめ、淡々と続けた。
「今日という日を通じて思った。私は君からの好意をただただ甘んじることは出来ない……勘違いしないで欲しいけど、負担だと思ったわけじゃない。私はまだ愛というのは分からない。でも君の想いを無碍にしたくないと思った。だからせめてパートナーという形でゆうに安心感を提供したい。ラビ、そういう理由じゃ……ダメかな?」
ラビは頷いた。
「問題ありません。お決めになるのはお二人ですので……ゆう様の想いが伝われば、それで」
彼は立ち上がり、瞳をキリッと輝かせた。
「りんさん……勝負させてください! りんさんのその想いを僕は大切にしたいです!」
ラビが微笑んだ。
「では勝負方法は……?」
りんは天を仰ぎ、少し考えて少年を見つめ、微かに唇を緩めた。
「では……じゃんけんで」
あかりの声が上ずった。
「はぁ!? じゃんけんって……!」
ラビはかしこまりましたと一礼した。
「りん様へのファーストチャレンジ! 勝負はじゃんけん!」
ゆうの顔に緊張が走り、瞳がりんの視線を捉え、みんなの息遣いが止まった。
「じゃんけん……ぽん!」
ラビの掛け声とともに手が出され、彼のグー、りんのパー。
少年は崩れ落ち、膝をついた。
「うう……!」
りんがゆうに手を差し伸べた。
「もう一回……やろう?」
ラビがその姿を見て、再び掛け声が上がった。
「じゃんけん……ぽん!」
ゆうのパー、りんのグー。
りんがニコッと笑った。
彼はりんに抱きつき、匂いを嗅いだ。
りんのシャンプーの香り、潮風の塩気、海の記憶が混じり、肌の温もりが伝わった。
あかりが目を丸くした。
「えっ、何してんの、あんた!?」
みおが大人ぶってニカッと笑った。
「あれが月兎人の告白なんだよ。りんに嗅ぎ返したら告白成立なんだ」
りんは少年をぎゅっと抱きしめた。
クールな声に熱が混じった。
「多分、これが……好きと言う感情なんだろうな」
ゆうの頭に顔を寄せ、匂いを嗅いだ。
彼の体温がりんの胸に伝わった。
ラビが拍手した。
「パートナー成立、おめでとうございます!」
みおとゆいもぱちぱちと手を叩いた。
少年は笑顔でりんに言った。
「これからよろしくお願いします……りんさん!」
「あぁ……」
りんはゆうを抱きしめ返した。
銀髪が彼の肩に落ちた。
あかりはため息をつき、ぼやいた。
「ったく、こんなに簡単に決めて良いのかしら……」
刹那、ひよりが立ち上がった。
「わっ、私も……じゃんけんで勝負したいです……!」
みんなの目線が少女に注がれた。
みおが言った。
「ひより……こういうのは皆に合わせなくていいんだぞ」
ひよりは頭を振り、眼鏡を押し上げ、震える声で続けた。
「私、きっと今じゃないとこういう気持ち伝えられないと思うので……宇崎くん……ゆうくんとはまだ会って短いけど、私はゆうくんのおかげでこうしてみなさんともお近づきになれて楽しくて。皆さんにはそう映ってないかもしれないけど……その、皆さんが思っている以上にたくさんの嬉しい思いをいただいているんです。ですので……その……」
少女の目から涙があふれた。
「あの、これは……ちがくて、その、ゆうくん。嫌とかじゃなくて、なんで……止まらない……!」
ゆうはひよりに近づき、抱きしめた。
「ひよりさん……じゃんけんしましょう。僕もひよりさんの想い……受け止めたいです」
彼は手を振り、少女もつられて手を出した。
「じゃんけん……ぽん!」
ゆうの勝ちだった。
少年はひよりの匂いを嗅ぎ、心を温かくした。
ひよりも彼の胸元で匂いを嗅ぎ、ゆうの香りが体を満たした。
少女は涙声で言った。
「ゆうくん……好きだよぉ……!」
彼は微笑んだ。
「ひよりさんのこと好きですよ……これからも一緒にがんばりましょう」
ラビが拍手し、みお、ゆい、りんも温かく手を叩いた。
「ゆう様、ひより様──パートナー成立です!」
こうして少年は四人のパートナーの成立を果たした。
甘酸っぱい夜が帳を降ろし、火の光が浜辺を照らし、波音がみんなの笑いを包んだ。
文化祭の喧騒を前に、ゆうの心にみんなの温もりが静かに根を張った。




