第22話
ゆうは床に落ちた制服を慌てて拾い、着直した。
髪が乱れ、瞳が恥ずかしげに伏せられひよりの視線を避けた。
ボタンを留めながら、呟いた。
「す、すみません……また、こんなことに……」
少女は息遣いが乱れ、小さな声で返した。
「い、いえ……私のせいですので……」
二人の間に気まずい沈黙が流れた。
あかりは頭を抱えて壁に寄りかかり、吐き捨てた。
「クラス中制覇しそうね……!」
みおはくすくすと笑いを堪え、ひよりの肩を叩いた。
「ひよりちゃん、ようこそ! ゆうのハーレム、正式メンバーだな」
少女の体がびくりと震えた。
その時、教室の扉が静かに開き、ラビが入ってきた。
「みなさん、こちらへ……お迎えに上がりました」
青い瞳が部屋をなで、ゆうの姿を確認した。
あかりは立ち上がった。
「ラビさん……何の用よ?」
ラビは穏やかに一礼した。
「ゆう様も。こちらへ」
そう言い、手を差し伸べた。
彼は服を整えて、瞳を輝かせ尋ねた。
「ラビ……? 何か、あったんですか?」
ラビは首を振った。
「ほら、行こうぜ!」
ひよりはみおの明るい声に押された。
四人はラビに連れられて外へ出た。
校門前のリムジンに誘導され、ドアが開いた。
そこにはすでにゆいとりんが座っており、ゆいの栗毛ヘアがカチューシャ風にまとめられ、りんの銀髪の外はねが光った。
あかりは座席に沈み、窓の外を睨んだ。
「まさか、またラビラビランドに行くんじゃないわよね……?」
ゆうは隣に座り、答えた。
「僕も、聞かされてないので……わかりません」
ひよりは体を縮こまらせ、眼鏡を押し上げてビビり気味に座った。
みおは、明るく言った。
「ま、着けばわかるさ!」
ラビが最後に乗り込み扉を閉め、リムジンは発車した。
あかりがラビに詰め寄り、尋ねた。
「ラビさん、何なのよ、これ……?」
ラビは微笑んだ。
「着けば、わかりますので……お待ちくださいませ」
彼もラビに尋ねた。
「ラビ……僕も聞かされてないんだけど……」
ラビは少し困った顔で頭を下げた。
「……着けばわかりますので」
みおがゆうの肩を叩いた。
「心配性だなぁ、ゆう!」
ゆいがほほ笑んだ。
「ふふ、そうね」
りんは無言で頷いた。
ひよりはこの状況にただただビビり、足をがくがくと震わせた。
やがてリムジンが停まった。
到着したのは海の近くにそびえる巨大な高級ホテル、帝国ラビラビホテルだった。
白亜の壁が夕陽に輝き、噴水の水音が優雅に響いた。
五人を圧倒的なスケールで迎えた。
あかりが生唾を飲んだ。
「ここって……ホテルよね。ラビラビの、超高級リゾート……」
窓に額を押しつけた。
みおも少し動揺し、瞳を丸くした。
「おぉ……」
ゆいは頰を撫でた。
「まあまあ、豪華だわ……」
りんは自身の胸元を覗き込んだ。
「……もう少し可愛い方が良かったかな」
ひよりは眼鏡の奥で瞳を潤ませた。
「ひ、ひぃ……私、こんなところ、初めて……」
コンシェルジュが総出で玄関に並び揃って一礼した。
「ようこそ、帝国ラビラビホテルへ!」
ラビが先頭に立ち、みんなをエスコートした。
ホテルの二階、巨大パーティ会場『ラビラビの間』へ向かい、扉が開いた。
そこには豪華なシャンデリアが輝き、絨毯の赤みが足元を包んだ。
中央に椅子が五脚並べられ、女性陣がそこに座るよう誘導された。
その前に豪華な椅子が用意され、ゆうが目の前に座る形だった。
まるで裁判所の被告席のような配置だった。
照明がすっと消え、プロジェクターが起動して壁にデカデカとタイトルが表示された。
ラビがマイクを握り声を張り上げた。
「第一回、その心を掴むのは一体誰なの!? 姫! 今僕が迎えに行きます! ゆう様男を見せつけろ大会! 開催です!」
同時にカラーテープが飛び交い、兎メイドたちの拍手が響いた。
照明がつき、ラビが続けようとしたが、あかりが立ち上がった。
「いったい、何なのよこれは!? ひよりちゃん、ビビり過ぎてずっと震えちゃってるんだけど!」
ひよりは椅子に縮こまり、涙を溜めた。
彼は心配そうにラビを見た。
「ラビ……これ、何なんですか?」
ラビは告げた。
「ゆう様の姫様候補が五人になりましたので……月兎王国の伝統にのっとり、これからゆう様には皆様に姫様候補として認めてもらえるように、勝負を挑んでいただきます」
あかりが叫んだ。
「勝負って……何よ、それ!?」
みおが拳を握り、立ち上がった。
「良いぞ! 勝負だ! 燃えてきたぜ!」
あかりが、みおの肩を押さえた。
「ややこしいから座ってなさい!」
ラビは淡々と続けた。
「姫様候補の皆様には勝負の方法を決め、その勝負内容でゆう様に挑んでいただきます。勝った暁にはゆう様に告白して頂き、その答えを姫様候補の皆様に出して頂く形になります」
あかりの目が鋭く細まった。
「そんな……私たちが勝ったり、断ったら、どうするのよ?」
ラビの目が青く光り、部屋の空気がぴりっと張りつめた。
「その時は……」
ラビが切り出すと、あかりたちが生唾を飲み、息を呑んだ。
みおの拳が止まり、ゆいの瞳が揺れ、りんの銀髪が静止し、少女のおさげが震えた。
ラビの声が静かに、しかし有無を言わさぬ威厳で響いた。
「告白を受け、姫様として受け入れて頂くまで……ゆう様には、挑んでいただきますわ」
静寂が生まれ、空気が重く沈んだ。
シャンデリアの光が冷たく感じられ、りんが口を開いた。
「それは……やる意味はあるのか?」
ラビは語った。
「王族と言えど皆様に恋愛を強制はできません。ですので皆様にはゆう様の挑戦を通してゆう様を知って頂き……ゆう様が諦めるまではその想いを受け取って頂きたいのです。皆様、どうでしょうか? 勝負の内容は後で決めていただいて結構ですので……ゆう様を信じて頂きたいのです」
みおが手を挙げて笑い、宣言した。
「俺は足の速さでいいぜ! 今回は勝つ! そのために毎日練習してたんだ!」
ゆいが手を挙げ、応じた。
「勝負はまだ決められませんが……私はお受けいたしますわ」
りんも、手を挙げ答えた。
「問題ないわ……」
あかりはため息をつき、腕を組んだ。
「いいわ、やってあげるわよ……でも、半端なことしたら許さないからね!」
視線がゆうに飛ぶと、瞳が決意に輝いた。
あかりがひよりを振り返った。
「それで、ひよりはどうすんの?」
少女は震えながら立ち上がった。
「よく……分かりませんが、今決めなくてもいいのなら……皆さんに、合わせます……」
小さな声が勇気を振り絞るように響いた。
彼は立ち上がり、瞳をみんなに向け、宣言した。
「僕は絶対に諦めません! 皆さんに認めてもらえるよう全力で頑張ります! どんな勝負でも一歩も引きません! それがこれからの僕です!」
どこから現れたのか大量のスタッフと兎メイドたちが部屋に溢れ、ラビが先頭に立った。
拍手が鳴り響き、カラーテープが天井から降り注いだ。
「おめでとうございますー!」
ラビの声がマイクで響き渡った。
こうして「第一回、その心を掴むのは一体誰なの!? 姫! 今僕が迎えに行きます! ゆう様男を見せつけろ大会!」が華やかに幕を開けた。




