第12話
放課後のチャイムが鳴った。
手芸部の部室はいつもより賑やかだった。
ゆう、みお、そしてゆいが次々と顔を揃えた。
彼は瞳を伏せて入室し、みおが肩をすくめて後ろから続き、ゆいが扉を閉めた。
あかりは針を止めた。
立ち上がり腕を組んだ。
「……なんで、みんなここに集まるのよ」
視線が少年に固定された──この王子が巻き込んだんだろうな。
彼は申し訳なさそうに肩を縮めた。
瞳をちらちらと巡らせた。
「あの……実はですね。ゆい先輩に、図書室で助けてもらったお礼を言いたくて……それで、みおさんが『手芸部ならあかりもいるし、みんなで話そうぜ』って。僕、勝手に誘っちゃって……すみません」
言葉が途切れがちになり、経緯を説明する声に申し訳なさがにじんだ。
図書室のハプニング、ゆいのキス、そしてその後のドキドキをぼかしながら語った。
あかりは額を押さえた。
「はあ……また、あんたのせいね」
ため息をついたが、瞳の奥に諦めの色が浮かんだ。
みおはくすくすと笑い出した。
「あはは! やるなぁ、ゆう。ついに先輩にも手を出すとは!」
明るい声が部室の空気を軽くした。
ゆいは微笑んだ。
「ふふ……みんな、ゆうくんのこと心配してるのね」
あかりはゆいに向き直り眉を寄せた。
「ゆい先輩、本当にいいんですか? 関わってもろくなことにならないですよ、きっと」
警告したが彼女はくすっと笑った。
少年の後ろに近づき、腕を肩に回し、後ろから抱きしめた。
髪が頰に触れ、柔らかな温もりが背中を包んだ。
「遠い所から一人で来たんだもの……きっとさみしいのよ。みんなで支えてあげましょう?」
声は子守唄のように部屋を満たした。
少年の体が、ゆいの腕の中で少し固くなった──暖かい……。
あかりはそんな光景を見て少し目を細めた。
彼の横顔を見つめ、瞳が恥ずかしげに伏せられた姿に胸がきゅっと疼いた──さみしい、か……。確かにこの子一人で地球に来てるんだもんね。
あかりはため息をつき肩を落とした。
「……わかりました。ゆい先輩がそうおっしゃるなら」
ゆいの顔がぱっと花のように開いた。
「まあ、ありがとう。あかりちゃん、優しいわね」
その言葉に、彼女の唇が穏やかに弧を描き、部屋全体を包み込むような笑みが広がった。
ゆいはゆっくりと立ち上がり、ゆったりとしたセーターの袖を軽く払う仕草で、まるで家族の輪を広げるように両腕を広げた。
彼女の指先が空気を撫でるように動き、あかりの肩にそっと触れ、みおの背中を軽く引き寄せ、そして少年の肩を包み込むように手を置いた。
「みんな……これで、もっと仲良くなれそうね」
声は低く、鈴のように響き、部室の空気を一瞬で変えた。
ゆいの腕が自然とみんなを繋ぎ、少年はその中心に──まるで花の芯のように──包まれた。
ゆいの体温がみんなに伝わり、あかりの肩の緊張が解け、みおの笑いが抑えられ、少年の体がその優しさに溶け込んだ。
彼の顔が、みんなの抱擁の温もりに埋もれた。
あかりの柔らかなシルエットが頰を撫で、心臓の鼓動が布地越しに静かなリズムで響いた。
みおの引き締まった曲線が背中を支え、逞しい温もりが少年を支え抜いた。
そしてゆいの優美な優しさが頭を受け止め、セーターの下から伝わる穏やかなぬくもりと、栗毛のヘアから甘い香りが広がった。
──あ、だめ……みんなの温もり、……匂いが……甘くて、熱くて……。
少年の心臓が激しく鳴り響き、体が熱く震え、視界がぼやけ、耳がビクッと反応した。
背中から白銀の毛がふわりと広がる感覚がし、息が熱く乱れ──ぽふんっ……という可愛らしい、しかし切ない音を立てて、彼の体が瞬時に兎に変身した。
手のひらサイズの真っ白な兎姿が、みんなの腕の中で耳をピンと立て、長い耳をぴくぴくと震わせ、慌てふためいてキョロキョロと周囲を見回した。
「あらあら……」
ゆいの声が、驚きと愛おしさを込めて響き、彼女の指先が兎の少年の耳をそっと撫でた。
ゆいが笑みを浮かべて彼を抱き上げた。
「また、なっちゃったのね。かわいいわ」
彼女は少年を持ち上げ、あかりの顔の近くに持っていった。
「はい、仲直りの印よ。あかりちゃん、ゆうくんにキスしてあげて?」
あかりの耳朶がぴくりと赤く染まった。
視線を逸らし頰を膨らませたが、少年が恥ずかしげに見つめてきた。
「……もう、しょうがないわね」
そう呟き、顔を寄せて小さな口先に口づけを交わした。
唇の感触が温かく重なった。
輝きが体を覆った。
そのタイミングで部室の扉が静かに開いた。
「ゆう様、お迎えに上がりました……」
ラビの声が鈴のように響き、黒髪のアップを優雅に揺らし、入室した。
だが視界に飛び込んできたのは、あかりの膝の上の少年だった。
体が無防備に露わになっていた。
ラビの瞳が一瞬青く光った。
「……失礼いたしました。ごゆるりと」
扉を閉めようとし、メイド服の裾が翻った。
「あ、待って、ラビさん!」
あかりが、慌てて声を上げ、ラビの腕を掴んだ。
膝の上の少年を睨みつけた。
「ちょっと、ゆう! いつまでまたがってるのよ! 早く服着なさいよ!」
部室にみんなの笑い声が爆発した。
みおは豪快に笑った。
ゆいはくすくすと微笑した。
あかりは苛立った。
「すみません……!」
少年の小さな声が響き合った。
四人の絆が深まった。
ラビは扉の隙間から苦笑を浮かべた。
「では、外でお待ちしておりますわ……」
お辞儀をし去っていった。
少年は慌てて服を探した。
瞳を伏せながら、この温かな輪の中が地球の居場所だと感じた。




