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第85話 いつも通りの朝

 朝。


 目覚ましが鳴る少し前に、裕翔は目を覚ました。


 カーテン越しの光。

 遠くで走る車の音。


 特別なことは何もない。


 ただの平日だった。



 制服に着替え、スマホを手に取る。


 時間を確認する。


 通知は特にない。


 SNS。

 天気。

 メッセージ。


 いつも通り。


 それだけ確認してポケットへ入れた。


 REALITÉを開こうとは思わなかった。


 理由はなかった。



 通学路。


 交差点で信号を待つ。


 少しして、隣に人影が止まる。


「おはよ」


 一ノ瀬さつき。


「おはよ」


 自然な挨拶。


 タイミングも、距離も、もう考えなくなっていた。



「昨日、結構進んだ?」


「うん。まあまあ」


「私も」


 短い会話。


 続けようとも、終わらせようとも思わない。


 ただ歩く。



 学校へ向かう道。


 以前より速く歩いている気がした。


 でも急いでいるわけではない。


 歩幅が自然に揃っているだけだった。



 教室。


 授業。


 ノート。


 理解。


 質問。


 笑い声。


 全部、普通。



 昼休み。


 二人は窓際で弁当を食べていた。


 他愛ない話。


 テストの話。

 先生の癖。

 次の休みの話。


 リアリテの話題は出なかった。


 思い出しもしなかった。



 午後の授業。


 眠気。


 チャイム。


 放課後。



 図書館。


 並んで座る。


 ページをめくる音だけが続く。


 ときどき視線が交わる。


 それだけで十分だった。



 帰り道。


 夕焼け。


 信号待ち。


 風が少し暖かい。


「もう春だね」


 さつきが言う。


「だな」


 裕翔は空を見上げた。


 前と同じ景色。


 でもどこか違って見える。


 理由は考えなかった。



 夜。


 机の上。


 充電中のスマホ。


 画面が一瞬だけ点灯する。


 通知ではない。


 ただ、バックライトがついただけ。



 白い「R」のアイコンが、静かにそこにあった。


 誰にも触れられないまま。



 そして。


 朝から夜まで。


 二人は一度もREALITÉを開かなかった。



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