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第83話 更新されない記録

 放課後。


 教室には、まだ数人だけ残っていた。


 窓の外は少し赤く染まり始めている。


 裕翔は問題集を閉じ、小さく息を吐いた。


 集中していたはずなのに、不思議と疲れは少ない。


 以前なら、ここでスマホを開いていた。


 今日どれだけ上がったか。

 何が変わったか。


 確認するのが、いつの間にか習慣になっていた。


 ――けれど。


 今は違った。



(……そういえば)


 思い出したようにスマホを手に取る。


 REALITÉ。


 指が少しだけ迷ってから、画面をタップした。



 黒い画面。


 いつもの表示。


 STATUS。


 STR:D

 AGI:D

 INT:B

 SOC:C



 変わっていない。


 昨日と同じ。


 その前とも同じ。



 画面をスクロールする。


 本日の活動記録。



 ――記録なし



「……あれ」


 小さく呟く。


 今日は普通に授業を受けた。

 歩いた。

 考えた。

 話もした。


 なのに。


 何も記録されていない。



 もう一度更新を待つ。


 数秒。


 変化なし。



 画面下部。


 見慣れない小さな文字が追加されていた。



 同期状態:維持

 自動補正:完了

 更新:――



 最後の行だけ、表示が途中で止まっている。


 まるで、言葉を選んでいるみたいに。



「……壊れた?」


 そう思った瞬間。


 なぜか、少しだけ胸が静かだった。


 焦りはない。


 前みたいな不安もない。



 背後から声。


「まだそれ見てるの?」


 振り向くと、さつきが立っていた。


「いや……久しぶりに開いたらさ」


 スマホを見せる。


 さつきは画面を見て、首を傾げた。


「……私も、同じ」


「え?」


「更新、止まってる」



 二人は顔を見合わせた。


 驚くほど、落ち着いていた。


 まるで予想していたみたいに。



「前だったらさ」


 裕翔が言う。


「ちょっと焦ってたよな」


「うん」


 さつきは少し考えてから笑った。


「でも今は……別にいいかも」



 裕翔も小さく笑う。


「だな」



 スマホを閉じる。


 画面は暗くなる。


 REALITÉは、何も告げない。



 窓の外。


 部活へ向かう生徒たちの声。


 いつも通りの放課後。



 変わらない景色の中で。


 変わらないはずのアプリだけが、


 静かに動きを止めていた。


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