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第81話 変わらない数字

 放課後。


 図書館の窓際。


 夕日が机を橙色に染めていた。


 裕翔は問題集を閉じ、小さく息を吐く。


「……終わった」


「早いね」


 隣でさつきが顔を上げる。


「今日は集中できた」


「うん、分かる」


 さつきも頷いた。


 最近、勉強は安定している。


 急に理解できるわけじゃない。


 でも確実に積み重なっている感覚。



 ふと。


 裕翔は思い出したようにスマホを取り出した。


「そういえばさ」


「ん?」


「最近、全然見てなかった」


 REALITÉ。


 アイコンをタップする。



 画面が開く。



STATUS


STR:D

AGI:D

INT:B

SOC:C


同期状態:安定



「……」


 数秒、黙る。


「どうした?」


「いや」


 画面を見せる。


「変わってない」



 さつきも自分のスマホを開いた。


 同じアプリ。


 同じ画面。



STATUS


STR:D

AGI:D

INT:A

SOC:C


同期状態:安定



「……ほんとだ」


 前なら。


 毎日のように小さな変化があった。


 +0.01。

 補正。

 更新ログ。


 今は何もない。



「止まったのかな」


 裕翔が言う。


「かも」


 さつきは意外なほど落ち着いていた。



 不安はない。


 焦りもない。


 ただ事実を確認しているだけ。



「でもさ」


 さつきがノートを閉じながら言う。


「困ってないよね」


「うん」


 即答だった。



 むしろ。


 前より自然に進めている。


 リアリテを意識しなくても。



 窓の外、夕焼け。


 静かな時間。


 しばらく二人とも何も言わなかった。



 裕翔はもう一度画面を見る。


 数字。


 変わらないステータス。


 動かない表示。



 なぜか。


 終わった感じはしなかった。


 ただ――


 役目が終わったような気がした。



 アプリを閉じる。


 ホーム画面へ戻る。


 白い「R」のアイコン。


 そこにあるのに。


 もう以前ほど目を引かなかった。



「帰ろ」


 さつきが立ち上がる。


「うん」


 二人は並んで図書館を出た。



 その日以降。


 REALITÉの数値は、一度も変わらなかった。



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