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第79話 少しだけ違う日

 放課後。


 図書館は静かだった。


 窓際の席。

 いつもの場所。


 裕翔が先に座り、参考書を開く。


 少し遅れて、一ノ瀬さつきが隣に座った。


「待った?」


「いや、今来たとこ」


 もう何度目か分からないやり取り。


 けれど、不思議と飽きない。



 ページをめくる音。


 シャーペンの走る音。


 外を通る自転車のブレーキ音。


 全部が穏やかに混ざる。



 裕翔は問題を解きながら、ふと気づいた。


(……あれ?)


 解ける。


 ちゃんと解ける。


 でも。


 前みたいな“加速感”がない。



 理解はできる。


 けれど。


 頭が急に冴える感覚が、今日はない。


(まあ、気のせいか)


 ページをめくる。



 隣。


 さつきもペンを止めていた。


「どうした?」


「……ううん」


 少し考えてから言う。


「なんか今日、普通」


「普通?」


「昨日まで、ちょっと調子よすぎた気がして」


 小さく笑う。


「戻った感じ」


「それが普通なんじゃない?」


「……かも」



 二人はまた勉強に戻る。


 会話は自然に終わった。


 無理に続けようとはしない。



 時間が流れる。


 夕日が机を赤く染め始める。


 さつきが伸びをした。


「今日はここまでにしよ」


「うん」


 同時にノートを閉じる。


 タイミングがまた揃う。


 二人とも気づかないまま。



 帰り道。


 並んで歩く。


 前より少し距離が近い。


 でも、意識はしていない。



「最近さ」


 裕翔が言う。


「勉強、前より楽じゃない?」


「うん」


 即答だった。


「……でもね」


 さつきが続ける。


「前みたいに“頑張らなくてもできる”感じじゃなくなった」


「へえ」


「ちゃんと考えてる感じ」


 少しだけ満足そうに笑う。


「悪くないかも」



 その言葉を聞いて。


 裕翔はなぜか安心した。


 理由は分からない。



 ポケットの中。


 スマホが震える。


 取り出す。



REALITÉ


同期状態:安定

補正率:低下中



「……?」


 意味は分からない。


 通知はすぐ消えた。


 履歴にも残らない。



「どうした?」


「いや、なんでもない」


 画面を閉じる。



 夕焼けの道を歩く。


 会話は途切れたり戻ったり。


 それでも心地いい。



 リアリテのことを。


 二人とも、少しずつ考えなくなっていた。


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