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第74話 いつも通りの失敗

 放課後。


 チャイムが鳴る。


 裕翔は机の中を必要以上に整理していた。


(普通にしろ、普通に)


 深呼吸。


 ただ一緒に帰るだけ。


 昨日までと同じ。


 問題ない。



「朝倉」


 背後から声。


 肩が跳ねた。


「お、おう!」


 振り向く。


 一ノ瀬さつき。


 いつもの表情。


 ……のはずなのに、少し意識してしまう。



「帰る?」


「帰る帰る帰る」


「……三回言った」


「え、あ、いや別に意味はない」


 もう失敗していた。



 二人で教室を出る。


 沈黙。


(なんか話せ)


 頭の中が妙に忙しい。



「今日さ!」


 急に声が大きくなる。


 さつきが少し驚く。


「数学どうだった!?」


「……普通」


「だよな普通だよな!普通が一番だよな!」


「……?」



 階段を降りながら。


 裕翔は止まらない。


「てか今日暑くない?いや別に暑くないか?でも春って難しいよな温度!」


「朝倉」


「はい」


「落ち着いて」



 即座に静かになる。


 自分でも分かる。


 変だ。



「……なんか今日変」


 さつきが率直に言う。


「いやそんなことないけど?」


「ある」


 即答だった。



 少し歩く。


 沈黙。


 そして。


「……クラスのやつらがさ」


 裕翔がぼそっと言う。


「なんか変なこと言ってきて」


「変なこと?」


「いや、別に大したことじゃない」



 言いながら気づく。


 説明できない。


 したくもない。



 校門が見える。


 夕方の光。


 いつもの帰り道。



「……私も」


 さつきが小さく言った。


「今日、同じこと聞かれた」


 裕翔の足が止まりかける。


「え?」


「朝倉と仲いいって」



 沈黙。


 風だけが通り過ぎる。



「……まあ」


 裕翔は視線を前に向けたまま言う。


「間違ってはないんじゃない?」


 言ってから、自分で驚く。



 さつきは少し考える。


「……そうかも」


 小さく頷いた。



 それ以上は続かない。


 でも。


 さっきまでのぎこちなさは消えていた。



 二人は並んで歩く。


 昨日と同じ距離。


 でも少しだけ、意識した距離。



 裕翔は心の中でため息をついた。


(普通って難しいな)


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