第73話 そう見えるらしい
昼休みの終わり。
さつきはノートを閉じ、次の授業の準備をしていた。
「一ノ瀬さん」
声をかけられる。
顔を上げると、クラスの女子二人。
あまり深く話したことはない相手だった。
⸻
「ちょっと聞いていい?」
「……なに」
「朝倉くんとさ」
一瞬、思考が止まる。
⸻
「付き合ってるの?」
「……は?」
素直な反応だった。
⸻
「いや、最近一緒に帰ってるじゃん」
「昼も目合ってるし」
「なんか雰囲気違うよね」
⸻
言葉が出ない。
否定する理由はある。
でも、どう否定すればいいのか分からない。
⸻
「別に」
ようやく出た言葉。
「そういうのじゃない」
「へー」
意味ありげな笑顔。
⸻
「でも一ノ瀬さん、前より柔らかくなったよね」
「うんうん」
「朝倉くんと話すようになってからじゃない?」
⸻
胸が小さく揺れる。
(……関係ない)
はずなのに。
否定が少し遅れた。
⸻
「……偶然」
短く答える。
⸻
「まあでもお似合いだと思うよ」
軽く言われたその言葉。
なぜか心拍が一瞬跳ねた。
⸻
「じゃ、またね」
二人は去っていく。
教室のざわめきが戻る。
⸻
さつきはしばらく動かなかった。
ペンを持ったまま。
⸻
(……そう見える?)
意味が分からない。
ただ一緒に帰っているだけ。
話しているだけ。
⸻
視線が無意識に動く。
教室の斜め前。
裕翔が友達と話している。
笑っている横顔。
⸻
昨日までと同じはずなのに。
少しだけ、見え方が違った。
⸻
さつきは慌ててノートへ視線を落とす。
(……変)
理由は分からない。
でも。
胸の奥が落ち着かなかった。




