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第72話 最近さ

 昼休み。


 男子グループの机にはパンの袋が散らばっていた。


「なあ朝倉」


 唐突に声をかけられる。


「ん?」


 牛乳パックを持ったまま顔を上げる。



「最近さ」


 一拍置かれる。


「一ノ瀬と帰ってね?」


 ストレートだった。



「……は?」


 思考が止まる。


「いや別に」


 反射で否定する。



「いや帰ってるだろ」


「昨日も一昨日も見たぞ」


「校門一緒だったし」


 逃げ道が消える。



「たまたまだから」


「二日連続で?」


「……」



 男子がニヤっと笑う。


「仲良くなったよな急に」


「前、会話すらしてなかったじゃん」



 裕翔は言葉に詰まる。


 確かにそうだった。


 でも。


 説明ができない。



「別にそんなんじゃねーよ」


 パンをかじる。


 視線を逸らす。



「へー」


 明らかに信じていない声。


「まあ一ノ瀬、最近雰囲気変わったよな」


「それは思う」


「前より話しかけやすい」



 その言葉に、裕翔の手が止まる。


(……やっぱり)


 リアリテ。


 同期。


 変化は自分の気のせいじゃない。



「で?」


 追撃が来る。


「付き合ってんの?」


「違う!」


 即答だった。


 思ったより大きな声が出る。



 一瞬静まり。


 すぐ笑いが起きる。


「否定早すぎだろ」


「怪しいなー」



「だから違うって」


 少しだけ顔が熱い。



 そのとき。


 教室の入口。


 一ノ瀬さつきが入ってきた。


 視線が自然にそちらへ向く。



「ほら来た」


「タイミング良すぎ」


「呼ばれてんじゃね?」


「違うから!」



 さつきは気づかないまま席へ向かう。


 いつも通りの表情。


 でも。


 裕翔の視線と一瞬だけ合う。



 小さく頷かれた。


 それだけ。


 なのに。


 胸が少し落ち着く。



「……はいはい」


 男子が笑う。


「もうそれで分かるわ」


「何がだよ」


「いや別に?」



 裕翔はため息をついた。


 意味が分からない。


 ……はずなのに。



 なぜか少しだけ、悪い気はしなかった。

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