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第71話 いつの間にか

 放課後。


 チャイムが鳴る。


 教室の空気が一斉にほどけた。



 裕翔はノートを閉じる。


 昨日のことを思い出す。


 廊下。

 夕焼け。

 「楽しかった」という小さな声。


 少しだけ落ち着かない。


(……今日は別に)


 特に約束はしていない。



 鞄を持って立ち上がる。


 そのとき。


「朝倉」


 後ろから声。


 振り向く前に分かった。



 一ノ瀬さつき。


「帰る?」


 短い一言。


 まるで昨日の続きみたいに自然だった。



「あ、うん」


 考える前に答えていた。



 二人で教室を出る。


 並んで歩く。


 会話は少ない。


 でも沈黙が重くない。



 階段を降りながら、さつきが言う。


「今日、数学簡単だった」


「マジで?」


「うん。前より整理できる感じ」


 リアリテ。


 裕翔は内心で思う。


 けれど口には出さない。


「じゃあ次のテスト強そうだな」


「……別に」


 否定しながら、少しだけ嬉しそうだった。



 昇降口。


 靴を履き替える。


 タイミングが自然に合う。


 待ったわけじゃないのに。



 校門を出る。


 夕方の風。


 昨日と同じ道。



「……なんか」


 さつきが呟く。


「昨日と同じ」


「そうだな」


「嫌じゃない」


 小さな声。



 裕翔は少しだけ視線を前に向けたまま答える。


「俺も」



 それ以上は続かない。


 でも十分だった。



 信号待ち。


 赤。


 横並び。


 会話なし。


 なのに気まずくない。



(……いつからだろ)


 裕翔は思う。


 一緒に帰るのが自然になったのは。



 青に変わる。


 二人は同時に歩き出す。


 特別な約束はない。


 名前もついていない。


 ただ。


 気づけば、隣にいる。



 それが少しだけ心地よかった。

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