第68話 なんか違くない?
昼休み。
教室は弁当の匂いと雑談で満ちていた。
「なあ」
窓際でパンを食べていた男子が、小声で言った。
「一ノ瀬ってさ」
「ん?」
「なんか今日、雰囲気違くない?」
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視線の先。
一ノ瀬さつきはいつも通り席でノートを見ている。
姿勢も同じ。
表情も同じ。
変わったようには見えない。
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「別に?」
隣の女子が肩をすくめる。
「いつもあんな感じじゃん」
「いや、なんつーか…」
言葉を探す。
「怖くない?」
「は?」
「前って話しかけづらかったじゃん」
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女子がちらっと見る。
さつきは隣の席の子と短く会話していた。
「それ取って」
「あ、うん」
自然なやり取り。
すぐ終わる。
でも。
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「あー……」
女子が小さく頷く。
「なんか普通」
「それ」
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普通。
その言葉が妙にしっくりくる。
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「前さ、近寄ると緊張したんだよな」
「分かる。怒ってなくても怒られそうっていうか」
「今日それないよな」
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本人は気づいていない。
ノートに視線を落としたまま。
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少し離れた席。
裕翔はその会話を偶然聞いていた。
パンを持つ手が止まる。
(……やっぱり)
視線を向ける。
さつき。
昨日と同じ姿。
でも確かに違う。
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机の中のスマホが静かに光る。
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REALITÉ
同期状態:安定
接続対象:1
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裕翔は画面を閉じた。
理由は分かっている。
たぶん。
でも。
少しだけ不思議だった。
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(こんな変わり方、するんだな)
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さつきがふと顔を上げる。
目が合う。
今度は逸らさなかった。
ほんの一瞬。
自然に。
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昼休みのざわめきは続く。
世界はいつも通り。
ただ。
誰にも説明できない変化だけが、
静かに広がり始めていた。




