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第67話 少し違う距離

 休み時間。


 教室はいつも通り騒がしかった。


 笑い声。

 机を動かす音。

 誰かのスマホの動画音。


 変わらない光景。


 ……のはずだった。



 さつきはノートを閉じる。


 次の授業の準備。


 いつもと同じ動作。


 けれど、気づく。


(……静か)


 音が減ったわけじゃない。


 むしろ騒がしい。


 なのに、気にならない。


 前なら集中が削られていた。


 誰かの声に苛立っていた。


 今日は違う。



 隣の席の女子が椅子をぶつけた。


「ご、ごめん!」


 反射的に謝られる。


 以前なら、

 どう返すか一瞬迷っていた。


 空気を考えて、

 正解を探していた。


 でも。


「……大丈夫」


 自然に言葉が出た。


 考える前に。



 相手がほっとした顔をする。


「ありがと」


 それだけ。


 会話は終わる。


 なのに、不思議だった。


 嫌な感じが残らない。



(……なんで)


 胸の奥が静かだ。


 緊張が続かない。


 人と話したあと特有の疲れが来ない。



 ふと視線を上げる。


 教室の向こう。


 裕翔が友達と話している。


 笑っている横顔。


 それを見た瞬間。


 理由もなく安心した。



 慌てて視線を落とす。


(違う)


 昨日のことを思い出しただけ。


 たぶん、それだけ。



 机の中でスマホが小さく震えた。


 画面を開く。



REALITÉ


同期状態:安定



 それだけの表示。


 数値は変わらない。



SOC:C



 さつきは数秒見つめて、画面を閉じた。


 意味は分からない。


 でも。


 今日は、人が少し怖くない。



 それが一番の変化だった。

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