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第65話 選ばれた夜

 帰り道の記憶が、少し曖昧だった。


 駅で別れて、

 電車に乗って、

 気づけば家の前に立っていた。


「……ただいま」


 返事はない。


 母はまだ仕事だ。


 静かな部屋に、自分の声だけが残った。



 鞄を置き、ベッドに腰を下ろす。


 やっと一人になった瞬間、

 胸の奥が落ち着かなくなる。


 理由は分かっている。


 スマホを取り出した。


 迷わずアプリを開く。



STATUS


STR:D

AGI:D

INT:A

SOC:C



「……」


 さっき見た数字。


 朝倉と一緒に見た画面。


 でも今は、少し違って見える。


 誰も説明してくれないから。



 ゆっくりスクロールする。



招待者

朝倉 裕翔



 指が止まる。


「……ほんとなんだ」


 小さく呟く。


 思い出す。


 一人しか紹介できない、という言葉。


 その意味を、今さら考えてしまう。



(なんで、私だったんだろ)


 クラスにはもっと話しやすい人がいる。


 明るい人もいる。


 友達が多い人もいる。


 自分は――


 うまくやれない。


 距離を間違える。


 正しくしようとして、離れられる。



 視界が滲んだ。


 涙だと気づくまで、少し時間がかかった。


「……ずるい」


 小さく笑う。


 嬉しいのか、

 困っているのか、

 自分でも分からない。



 もう一度、画面を見る。



SOC:C



 さっき上がった数字。


 理由は分からない。


 何をしたのかも分からない。


 なのに。


 見ていると、胸が少し温かくなる。


「……なんで」


 答えは出ない。


 けれど、嫌じゃなかった。



 スマホを胸に抱き寄せる。


 静かな部屋。


 いつもと同じ夜。


 なのに、少しだけ違う。



 画面の名前を見る。


 少しだけ長く。


 逃げずに。



「……ありがとう」


 届くはずのない相手へ。


 でも確かに存在している相手へ。


 初めて、自分から零れた言葉だった。

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