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第63話 理解より先に

 画面の光が、さつきの顔を淡く照らしていた。


 STATUS。


 知らない表示。


 知らない数値。


 知らないアプリ。


 なのに。


 自分の名前が、そこにある。



「……これ」


 声が少し震える。


「本物?」


「俺も最初そう思った」


 裕翔が答える。


 落ち着いた声。


 その普通さが、逆に現実感を強めた。



 さつきは画面をスクロールする。


 指先がぎこちない。


 情報が頭に入らない。



 身長。


 体重。


 身体データ。


 全部、正確だった。


「……なんで分かるの」


「分かんない」


「怖くない?」


「最初はちょっと」



 さつきは小さく息を吸う。


 怖い。


 確かに怖い。


 でも。


 それより強い感覚があった。



 画面の上部。


 小さな表示。



招待者:朝倉裕翔



 視線が止まる。


 動かない。



「……これ」


 指で指す。


「朝倉って」


「うん」



 心臓の音が急に近くなる。


 意味が分からない。


 仕組みも理解できない。


 でも。


 ひとつだけ理解できる情報がある。



「……一人だけって、言ったよね」


「……うん」



 沈黙。


 風が吹く。


 制服の裾が揺れる。



 頭の中で言葉が整理されない。


 整理しようとすると、別の感覚が邪魔をする。


 胸の奥が、じんわり熱い。


 息が少し浅い。



「……なんで」


 もう一度。


 同じ質問。


「私?」



 裕翔は困った顔をした。


 本当に答えを持っていない顔。


「……分かんない」


 少し考えてから続ける。


「でも」


 視線が逸れる。


「放っとけないなって思った」



 その言葉が、落ちる。


 静かに。


 でも確実に。



 さつきの思考が止まった。


 分析も。

 理解も。

 判断も。


 全部、追いつかない。



 代わりに浮かんだのは。


 ひとつだけ。



(選ばれた)



 その認識。


 次の瞬間。


 視界が少し滲んだ。



「……あ」


 自分でも気づいていない声。


 頬に触れる。


 指先が濡れる。



「……なんで」


 今度は違う意味だった。


 どうして泣いているのか分からない。


 悲しくない。


 怖くもない。



 ただ。


 ずっと張っていた何かが、静かに緩んだ。



「……ごめん」


 さつきが言う。


 理由もなく。


「いや、なんで謝るの」



 小さく笑いそうになって、失敗する。


 涙が止まらない。


 大きく泣くわけじゃない。


 ただ静かに流れる。



「……意味分かんない」


「うん」


「変なアプリだし」


「うん」



 なのに。


 スマホを握る手は、離れなかった。



 リアリテの画面は変わらない。


 新しい説明も出ない。


 演出もない。


 ただ、ステータスだけが表示されている。



SOC:E → D



 二人はまだ気づかない。


 数値が変わったことに。

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