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第50話 来ない理由は知らないまま

 翌日。


 裕翔は少し早めに図書室へ来ていた。


 理由は特にない。


 ただ、家でやるより集中できるから。


 ――そういうことにしている。



 席に座る。


 参考書を開く。


 問題を解き始める。


 頭はちゃんと動いている。


 昨日より調子はいい。


 それなのに。


 どこか落ち着かない。



 扉が開く音。


 反射的に顔を上げる。


 違う。


 また別の生徒。


(別に……)


 視線を戻す。


 ペンを走らせる。



 五分後。


 また扉の音。


 顔が上がる。


 違う。


(……癖になってるな)


 小さく息を吐く。



 スマホを確認する。


 REALITÉ。


 STATUS。


 INT:変動なし


 AGI:変動なし


 SOC:微動なし


 画面は静かだった。



(まあ、当たり前か)


 誰かと話したわけでもない。


 特別なこともしていない。


 ただ勉強しているだけ。



 時間が過ぎる。


 時計は午後五時。


 いつもなら、とっくに隣の席が埋まっている頃。


 今日は空いたままだった。



 ページをめくる音だけが響く。


 静かすぎる。


 昨日より、静かに感じる。



(……来ないな)


 思った瞬間、自分で驚いた。


 来る前提で考えていたことに気づく。


「……別に」


 小さく呟く。


 誰も聞いていない。



 席を立つ。


 帰る準備をする。


 鞄を肩にかける。


 それでも。


 ドアに手をかけたまま、少し止まった。



 振り返る。


 空席。


 何も変わっていない図書室。



 裕翔は小さく息を吐き、外へ出た。



 廊下を歩きながら、スマホを開く。


 REALITÉ。


 新しいログが一行追加されていた。



 行動変化を検出

 SOC +0.01



「……は?」


 立ち止まる。


 何もしていない。


 誰とも話していない。


 なのに。



 画面を見つめたまま、裕翔は気づかない。


 その増加理由を。

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