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第49話 いつもより少しだけ

 図書室の時計は、午後四時を指していた。


 裕翔は参考書を開いたまま、同じページを見続けていた。


 内容は理解している。


 問題も解ける。


 それなのに、集中が続かない。



 視線が自然と入口へ向く。


 誰かを探しているわけじゃない。


 ただ、音がすると反応してしまうだけだ。


(……気にしすぎ)


 ペンを動かす。


 数式を書く。


 途中で止まる。


 スマホは静かなままだ。



 INT変動なし



(まあ、そうだよな)


 昨日も同じだった。


 席替えがあっただけ。


 環境が変わっただけ。


 それ以上の意味はない。



 ページをめくる。


 五分経つ。


 また入口を見る。


 誰も来ない。



(帰るか)


 そう思って時計を見る。


 いつもなら、そろそろ来る時間だった。


 別に約束しているわけじゃない。


 待つ理由もない。


 なのに。


 椅子から立ち上がれない。



 参考書を閉じかけて、止める。


(あと一問だけ)


 問題を解く。


 終わる。


 時計を見る。


 まだ五分しか経っていない。


「……はは」


 小さく笑った。


 自分でも意味が分からない。



 さらに十分後。


 図書室の扉が開いた。


 反射的に顔を上げる。


 違う生徒だった。


 すぐ視線を戻す。


(何やってんだ、俺)



 スマホを確認する。


 STATUS。


 INTは動いていない。


 分かりやすい結果。


 条件は明確だ。


 それでも。


 今日は帰る気になれなかった。



 外が少し暗くなり始めた頃。


 裕翔はようやく立ち上がった。


 鞄を持つ。


 出口へ向かう。


 その途中で、もう一度だけ入口を見た。


 理由は考えなかった。



 廊下へ出る。


 ドアが閉まる音。


 静かな放課後。


 胸の奥に、小さな空白が残っていた。

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