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第42話 いつもの距離

 図書室の席は、いつの間にか固定されていた。


 窓側の長机。


 裕翔が座ると、少し遅れてさつきが来る。


 あるいは、その逆。


 どちらが先でも、結果は同じだった。


 向かいの席。


 特に約束したわけでもないのに、自然とそうなっている。



(……今日も来た)


 参考書から顔を上げた瞬間、視界の端に黒髪が入る。


 一ノ瀬さつき。


 静かに椅子を引き、鞄を置く。


 無駄な音を立てない。


 それだけなのに、空気が少し落ち着く気がした。


(集中、集中)


 裕翔は視線を戻す。


 今日は観察が目的じゃない。


 勉強だ。


 REALITÉの条件を探すためにも。



 問題を解く。


 詰まる。


 少し考えて、別の問題へ移る。


 昨日試したやり方。


 すると、不思議と理解が早い。


 数分後。


 スマホが小さく震えた。



 学習効率の向上を検出

 INT +0.01



(……やっぱりか)


 思わず口元が緩む。


 努力の量じゃない。


 やり方。


 それが少しずつ分かってきている。



「……それ」


 突然、声がした。


 顔を上げる。


 さつきがこちらを見ていた。


「途中式、飛ばしてる」


「え?」


「だから同じところで止まる」


 淡々とした口調。


 感情は薄い。


 でも視線は真剣だった。


「あ、なるほど……」


 言われた通りに書き直す。


 今まで曖昧だった部分が、すっと繋がる。


「助かった。ありがと」


「別に」


 いつもの返事。


 すぐに視線は本へ戻る。


 会話はそれで終わりだった。



 静かな時間が戻る。


 ページをめくる音だけが続く。


 ふと気づく。


 さっきより集中しやすい。


 理由は分からない。


 ただ、落ち着く。


(……なんでだろ)


 以前なら気にもしなかったはずなのに。


 今は、向かいに誰がいるかを意識している。



 帰り際。


 さつきが先に立ち上がった。


 鞄を肩に掛ける。


 そして一瞬だけ止まり、振り返る。


「今日、効率よかったね」


「え?」


「解く速度、昨日より速かった」


 それだけ言って歩き出す。


 特別な表情はない。


 本当に事実を言っただけの声。


 けれど。


 裕翔は少し固まったままだった。


(……見てたのか)


 胸の奥が、わずかに熱くなる。


 理由は分からない。


 REALITÉの通知でもない。


 数値でもない。


 ただ――


 少しだけ、嬉しかった。



 スマホを開く。


 STATUS。


 INT:E+


 小さな変化。


 けれど今日は、それよりも。


 別のことが気になっていた。




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