第38話 伸びない数値
放課後の教室は、いつもより静かだった。
窓の外では運動部の掛け声が響いている。
裕翔はノートを閉じ、小さく息を吐いた。
(……今日は、結構やったよな)
昼休みも使って問題集を進めた。
帰りのホームルーム前も復習した。
最近は、勉強すること自体が少し楽になってきている。
前より理解できる。
前より集中できる。
スマホを取り出す。
自然な動作だった。
REALITÉを開く。
⸻
STATUS
STR:E
AGI:D−
INT:E
SOC:?
⸻
(……あれ?)
指が止まる。
もう一度画面を見る。
変わっていない。
昨日と同じ数値。
スクロールする。
本日の活動記録。
学習活動を検出
集中時間:92分
表示はされている。
なのに――
数値変化なし。
「……え?」
思わず声が漏れた。
昨日までは違った。
少しでもやれば、必ず増えていたはずだ。
もう一度更新する。
変わらない。
アプリを閉じて開き直す。
それでも同じだった。
⸻
(バグ?)
でも、このアプリが間違えたことは一度もない。
むしろ、正確すぎるくらいだった。
画面の下に、小さな文字が追加される。
いつ表示されたのか分からない一文。
⸻
条件未達成のため成長は記録されませんでした。
⸻
裕翔は息を止めた。
「……条件?」
そんなもの、今までなかった。
少なくとも、気づかなかった。
努力すれば上がる。
そういうものだと思っていた。
けれど。
画面は静かなまま、何も説明しない。
⸻
窓の外を見る。
グラウンドでは誰かが何度もダッシュを繰り返している。
同じ距離を、何度も。
(同じことじゃ、ダメってことか……?)
胸の奥に、小さな引っかかりが残る。
成長していないわけじゃない。
手応えはある。
なのに、数値だけが動かない。
スマホを閉じる。
不安というほどじゃない。
けれど。
初めて、このゲームに“ルール”がある気がした。
⸻
帰り道。
裕翔はいつもより少しだけ考えながら歩いていた。
努力は無駄じゃない。
それは分かる。
でも――
(じゃあ、何をすれば上がるんだ?)
答えは表示されない。
REALITÉは、ただ記録するだけだった。
⸻
その夜。
机に向かった裕翔は、問題集を開いたまま手を止めた。
そして、初めて考える。
「……やり方を変えろってことか」
画面の向こうではなく。
現実の中で。
成長の条件を探すように。




