表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/45

第34話 同じ速度

図書室の時計が、静かに秒を刻んでいた。


外はすっかり夕方の色になっている。


裕翔は問題集に目を落としていた。


シャーペンが止まらない。


難しいはずの問題が、今日は妙に整理されて見えた。


向かいでは、さつきが参考書をめくっている。


ページをめくる音。


ペン先が紙を擦る音。


それだけが、ゆるやかに続いていた。


会話はない。


けれど沈黙は重くなかった。


ふと、裕翔が手を止める。


同時に。


向かいのページをめくる音も止まった。


顔を上げる。


さつきも顔を上げていた。


目が合う。


理由は分からない沈黙。


「……休憩する?」


裕翔が言う。


さつきは少し考えてから頷いた。


「……ちょうど思ってた」


小さな声だった。


二人は同時に立ち上がる。


椅子がほぼ同じ音を立てる。


裕翔は思わず笑った。


「タイミング一緒だな」


さつきは一瞬きょとんとして、それから視線を逸らした。


「……偶然」


否定する声は弱かった。


図書室を出て、自販機の前へ向かう。


裕翔が小銭を入れる。


何気なく飲み物を選ぶ。


その時、隣で硬貨の落ちる音がした。


さつきも同じタイミングで財布を閉じている。


裕翔はいつもの緑茶のボタンを押した。


ガコン、と缶が落ちる。


ほぼ同時に。


隣の自販機からも同じ音が響いた。


視線を向ける。


さつきの取り出し口にも、同じ緑茶。


二人とも少し止まる。


「……」


「……」


裕翔が先に笑った。


「また同じだな」


さつきは缶を取り上げ、少しだけ眉を寄せる。


「……別に、普通」


けれど声は、どこか軽かった。


並んで歩いて図書室へ戻る。


歩幅を合わせているわけではない。


それでも自然に距離が変わらない。


席に戻り、再び問題集を開く。


集中は途切れていなかった。


むしろ、さっきより思考が静かだった。


式が滑らかに繋がる。


隣でページがめくられる。


その音が、一定のリズムを作っている。


ポケットの中で、かすかな振動。


裕翔は手を伸ばさない。


代わりにペンを走らせる。


答えが迷いなくまとまる。


隣の存在が、特別に意識されるわけでもない。


ただ。


ここにいるのが自然だった。


図書室の静けさの中で。


二人は同じ速度で、時間を進めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ