第33話 共鳴
図書室は静かだった。
放課後の光が窓から差し込み、本棚の影を長く伸ばしている。
人は少ない。
ページをめくる音だけが、ゆっくりと流れていた。
裕翔は参考書を開く。
数学。
普段なら少し苦手な単元。
だが今日は、不思議と集中できそうな気がしていた。
向かいの席。
さつきがノートを広げている。
会話はない。
ただ同じ空間にいるだけ。
それなのに。
妙に落ち着く。
シャーペンが走る。
式を追う。
理解が早い。
「あれ……?」
思わず小さく呟く。
解ける。
いつもより明らかに思考が止まらない。
その時。
スマホが微かに震えた。
机の端。
画面が自動で点灯している。
REALITÉ。
裕翔は周囲を確認してから、そっと画面を見る。
新しい表示。
LINK同期率:36%
その下に、見慣れない文字。
共鳴状態を確認
「……共鳴?」
次の行が現れる。
SOCIAL補正:有効
集中力 +3(相互安定)
裕翔の心臓が一度強く鳴った。
補正。
ステータス。
久しぶりの変化。
しかも――
一人じゃない条件。
顔を上げる。
さつきは問題集に集中している。
いつも通りの無表情。
ただ。
ほんの少しだけ、表情が柔らかい気がした。
裕翔はもう一度問題を見る。
さっき躓いていた式。
今は自然に繋がる。
理解が滑らかだ。
REALITÉは間違っていない。
一人で努力した時とは違う感覚。
誰かといることで、思考が安定している。
裕翔はスマホを伏せた。
画面を閉じる。
胸の奥に、小さな確信が生まれる。
――このゲーム。
強くなるためのものじゃない。
選び方を変えるためのものだ。
「朝倉」
小さな声。
顔を上げると、さつきがこちらを見ていた。
「……そこ、違う」
ノートを指差す。
裕翔は覗き込む。
「あ、ほんとだ」
少し笑ってから、
「……ありがと」
自然に言葉が出た。
一瞬。
さつきの手が止まる。
視線が揺れて、すぐ逸らされた。
「……別に」
小さな声。
けれどさっきより少しだけ柔らかかった。
ポケットの中で、もう一度震える。
裕翔は手を伸ばしかけて、止めた。
画面を見る必要はなかった。
さっきより、頭の中が静かだった。
式が自然に繋がる。
隣でページをめくる音。
そのリズムに、自分の思考が合っている気がした。
裕翔は小さく息を吐く。
そして、もう一度ペンを走らせた。
⸻
ポケットの中で、もう一度震える。
裕翔は手を伸ばしかけて、止めた。
画面を見る必要はなかった。
さっきより、頭の中が静かだった。
式が自然に繋がる。
隣でページをめくる音。
そのリズムに、自分の思考が合っている気がした。
裕翔は小さく息を吐く。
そして、もう一度ペンを走らせた。




