第32話 戻し方
授業中。
黒板の文字は頭に入ってこなかった。
29%。
数字が離れない。
REALITÉを開きたい衝動を何度も抑える。
ただの数字。
なのに。
なぜか無視できない。
休み時間。
裕翔は机に肘をつきながら考えていた。
昨日は32%。
今日は29%。
下がった理由。
ログの言葉。
――相互接触機会逸失。
「接触機会……」
小さく呟く。
つまり。
機会を逃した?
朝。
さつきと目が合った。
でも。
佐藤と話して。
そのまま終わった。
……それか?
胸の奥が少しざわつく。
偶然かもしれない。
でも。
もし違ったら。
裕翔は前の席を見る。
さつきは静かに本を読んでいた。
いつも通り。
近いのに遠い。
REALITÉを開く。
LINK同期率:29%
変わらない。
裕翔は画面を閉じた。
考える。
ゲームだとしたら。
条件があるはずだ。
努力 → 上昇
失敗 → 低下
単純な構造。
なら。
「戻せる……よな」
自分でも驚くほど自然に思った。
放課後。
チャイムが鳴る。
生徒たちが立ち上がる。
裕翔も立ち上がり――
一瞬迷う。
ここで帰れば、昨日までと同じ。
何も変わらない。
29%のまま。
深く息を吸う。
そして。
「……一ノ瀬」
名前を呼んだ。
さつきが振り向く。
少しだけ驚いた顔。
「……なに」
「今日さ、図書室行かない?」
言ってから心臓が跳ねた。
理由はない。
ただ。
昨日より一歩増やしたかった。
数秒の沈黙。
さつきは目を逸らし、少し考える。
「……いいけど」
小さな返事。
その瞬間。
ポケットが震えた。
裕翔は思わずスマホを見る。
REALITÉ。
LINK同期率:31%
「……え?」
条件成立を確認
相互行動:増加
裕翔は息を止めた。
上がった。
理由は分からない。
でも。
確かに変わった。
顔を上げる。
さつきが少しだけ不思議そうにこちらを見ていた。
「……どうしたの」
「いや、なんでもない」
裕翔は笑ってごまかす。
そして歩き出す。
並んで教室を出る。
今度は分かっていた。
REALITÉは未来を与えない。
選んだ行動の結果を、ただ数値にするだけだ。
だから。
次は。
少しだけ迷わず歩けた。
⸻




