第31話 低下
翌日。
朝の教室はまだ静かだった。
裕翔は少し早めに登校し、席に座って問題集を開いていた。
集中しているつもりなのに、なぜか落ち着かない。
昨日表示された「LINK同期率」。
32%。
意味は分からない。
けれど、気になってしまう。
教室のドアが開く音。
顔を上げる。
さつきが入ってきた。
視線が合う。
ほんの一瞬。
いつもなら軽く頷く。
それだけの距離になっていた。
だが今日は。
「おはよ、朝倉」
横から声が割り込んだ。
クラスの佐藤だった。
裕翔は反射的にそちらを見る。
「お、おはよ」
そのまま会話が続く。
昨日の宿題の話。
部活の話。
他愛ない雑談。
ふと気づく。
さつきはすでに席についていた。
こちらを見ていない。
ノートを開き、いつもの姿勢。
特に変わった様子はない。
――気のせいか。
そう思った瞬間。
ポケットの中でスマホが震えた。
嫌な予感がした。
REALITÉ。
画面を開く。
LINK同期率:29%
「……え?」
思わず声が漏れそうになる。
数値が下がっていた。
新しいログが追加される。
相互接触機会逸失を確認
同期率:低下
裕翔の喉が乾く。
逸失。
失った?
何を。
視線が自然とさつきへ向く。
彼女は静かにノートを書いている。
いつも通り。
本当に、いつも通り。
なのに。
どこか距離を感じる。
さっきまで普通だった空気が、少しだけ遠い。
裕翔はスマホを閉じた。
胸の奥が落ち着かない。
REALITÉは何も指示しない。
理由も説明しない。
ただ結果だけを示す。
29%。
その数字が妙に重く感じた。
チャイムが鳴る。
授業が始まる。
けれど裕翔の意識は、黒板ではなく。
少し離れた前の席へ向いていた。
――何が違った?
答えは分からない。
ただ。
さっき何かを選ばなかった気がしていた。
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