第30話 同期率
放課後。
教室にはまだ数人残っていた。
部活へ向かう生徒、雑談を続けるグループ。
裕翔は席で問題集を閉じた。
ふと顔を上げる。
さつきは窓際でノートをまとめていた。
夕日が差し込み、横顔だけが少し柔らかく見える。
昨日までなら、ここで帰っていた。
でも今は。
「……帰る?」
自然に声が出た。
自分でも驚くくらい、普通に。
さつきは顔を上げる。
一瞬だけ考えるような間。
「……うん」
短く頷いた。
二人は並んで教室を出る。
会話は少ない。
けれど沈黙は気まずくない。
階段を降り、昇降口へ向かう。
外は夕焼け。
同じ方向へ歩き出す。
その時。
ポケットの中でスマホが震えた。
裕翔は足を止める。
今までとは違う感覚だった。
取り出す。
REALITÉ。
画面が自動で起動している。
黒い画面。
数秒の沈黙。
そして文字が表示された。
LINK状態を再評価中
「……?」
初めて見る表示だった。
画面がゆっくり更新される。
相互行動記録解析完了
その下に、新しい項目が追加される。
LINK同期率:32%
裕翔は息を止めた。
同期率。
数値。
今まで存在しなかった表示。
意味を考えるより先に、次の行が現れる。
相互影響安定化を確認
同期進行中
「朝倉?」
顔を上げると、さつきが少し不思議そうに見ていた。
「……どうしたの」
「いや、ちょっと」
言葉を濁す。
説明できるはずがない。
画面を見る。
数値は静かに点滅していた。
32%。
高いのか低いのか分からない。
けれど。
確実に増えているものがある気がした。
裕翔はスマホをしまう。
歩き出す。
さつきが隣に並ぶ。
歩幅が自然に揃う。
その瞬間。
ポケットの中で、もう一度小さく震えた。
裕翔は確認しなかった。
夕焼けの光の中。
ただ二人で歩く。
それだけなのに。
世界が少しだけ、前に進んだ気がした。
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