第24話 予測不能ログ
帰り道。
夕方の空は少し赤く染まり始めていた。
裕翔は駅へ向かう歩道を、ゆっくり歩いていた。
さつきとは途中まで同じ方向だったが、さっき別れたばかりだ。
特別な会話をしたわけじゃない。
ただ並んで歩いただけ。
それでも、不思議と沈黙は気まずくなかった。
ポケットのスマホが震える。
取り出す。
REALITÉ。
いつものログ更新だと思った。
だが――
画面を見た瞬間、足が止まった。
予測モデル更新中
「……予測?」
初めて見る表示だった。
今までは全部、過去の記録だったはずだ。
行動記録。
変化率。
確認。
すべて“起きた後”のもの。
なのに今回は違う。
画面がゆっくり書き換わる。
行動傾向解析完了
嫌な予感がした。
次の行が表示される。
接触頻度上昇を予測
相互影響拡大可能性:高
裕翔は思わず周囲を見回した。
誰もいない。
ただの帰り道。
なのに、背中が少し冷える。
「……なんだよ、それ」
REALITÉは中立のはずだ。
助言もしない。
指示もしない。
未来も示さない。
今までずっとそうだった。
なのに。
“予測”。
まだ起きていないことを、記録している。
画面がもう一度更新される。
観測精度補正中
次の瞬間。
文字が一行だけ追加された。
観測対象の選択傾向に変化を確認
裕翔は息を止めた。
選択傾向。
つまり。
自分の考え方そのものが、記録されている。
スマホの画面が暗転する。
ログ終了。
いつもの待機画面に戻った。
夕方の風が吹く。
さっきまで普通だった帰り道が、少しだけ違って感じた。
REALITÉは、ただ記録しているだけ。
そう思っていた。
でももし。
記録を続けた結果として――
未来が“見える”ようになっているとしたら。
裕翔はスマホをポケットにしまった。
そして小さく呟く。
「……観測って、そこまでやるのかよ」
答えは返ってこない。
ただ静かに。
観測は続いていた。
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