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第23話 違和感の正体

「……何?」


振り向いたさつきの声は、いつも通り淡々としていた。


驚いているようには見えない。


けれど、ほんのわずかに眉が動いた気がした。


裕翔は一瞬、言葉に詰まる。


呼び止めたのに、用事がない。


自分でも理由が分からない。


「いや、その……」


言葉を探す。


廊下には部活へ向かう生徒たちが流れていく。


二人だけが、立ち止まっていた。


「……今日、数学の小テスト難しくなかった?」


出てきたのは、どうでもいい話題だった。


言った瞬間、しまったと思う。


さつきは数秒、裕翔を見た。


そして小さく答える。


「普通」


即答だった。


会話終了。


いつもの自分なら、ここで「あ、うん」で終わる。


でも。


今日は少しだけ違った。


「……そっか。俺、最後の問題分からなくてさ」


沈黙が続く。


さつきは歩き出さない。


帰るでもなく、離れるでもなく、その場に立っている。


やがて、小さく息を吐いた。


「証明の三行目」


「え?」


「条件の置き方が違う。だから途中で崩れる」


淡々とした説明。


けれど分かりやすい。


裕翔は思わず笑った。


「マジか。そこかよ」


さつきは少しだけ視線を逸らす。


その仕草が、ほんのわずかに柔らかく見えた。


不意に、彼女が言う。


「……珍しい」


「何が?」


「あなたが、人に聞くの」


裕翔は言葉に詰まった。


確かにそうだった。


今まで、自分から誰かに話しかけることなんてほとんどなかった。


「……まあ、たまには」


曖昧に笑う。


さつきはしばらく裕翔を見ていた。


観察するような視線。


評価でも、拒絶でもない。


ただ――確認しているような目。


「……変わった?」


突然の言葉。


「え?」


「前より」


短い一言。


それだけ。


でも裕翔の胸が少しだけ跳ねた。


自分では分からない変化を。


誰かに先に見つけられる感覚。


「……どうだろ」


照れ隠しのように肩をすくめる。


さつきは小さく頷いた。


「そう」


それ以上は言わない。


けれど。


二人の間に流れる空気は、少しだけ前と違っていた。


その時、スマホが静かに震える。


裕翔は画面を見ないままポケットに押し込んだ。


なぜか、今は確認しなくても分かる気がした。


きっとまた、記録されている。


会話時間増加を確認。


そんな文字が。


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