第25話 観測されない側
夜。
机の上にノートが開かれている。
問題集、シャープペン、整った文字。
いつもの光景。
一ノ瀬さつきは、手を止めた。
理由は分からない。
問題は解けている。
集中もしている。
それなのに。
――落ち着かない。
視線が、無意識にスマホへ向く。
通知はない。
誰からも連絡は来ない。
いつも通り。
なのに今日は、何度も画面を確認してしまう。
小さく息を吐く。
「……意味分からない」
独り言がこぼれる。
原因は分かっている。
放課後。
朝倉裕翔に話しかけられたこと。
ただそれだけ。
特別な内容でもない。
雑談。
数学の話。
それなのに。
頭の中で、会話が何度も再生される。
なぜだろう。
今までクラスメイトと話しても、こんなことはなかった。
椅子にもたれ、天井を見る。
静かな部屋。
時計の音だけが響く。
胸の奥に、わずかな違和感。
嫌ではない。
むしろ――
少しだけ、気になっている。
その時。
スマホの画面が一瞬だけ点灯した。
通知音は鳴らない。
ただ、光っただけ。
さつきは眉を寄せる。
手に取る。
画面はホーム画面のまま。
通知なし。
アプリも開いていない。
「……?」
首をかしげる。
気のせいかと思い、机に戻そうとした瞬間。
ほんの一瞬だけ。
画面が暗くなった。
そして。
見慣れない文字が、ノイズのように浮かんだ。
観測対象外リンク反応を検知
次の瞬間、画面は元に戻った。
何もない。
普通のスマホ。
さつきは数秒、動かなかった。
今のは。
見間違い?
指先がわずかに止まる。
胸の奥が、少しだけざわつく。
理由は分からない。
けれど。
今日、裕翔に話しかけられた瞬間と。
同じ感覚だった。
さつきはゆっくりスマホを伏せた。
そして小さく呟く。
「……変なの」
誰に聞かせるでもなく。
ただ静かな部屋の中で。
説明できない違和感だけが、残っていた。
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