第19話 予定外
放課後。
教室にはまばらに人が残っていた。
一ノ瀬さつきは席に座ったまま、ノートを開いている。
今日の復習。
いつも通りの習慣。
問題を解き、答えを確認し、次へ進む。
手は止まらない。
思考も乱れていない。
――はずだった。
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同じ行を、三回読んでいることに気づく。
ペンが止まる。
(……集中できていない)
原因を探す。
体調は問題ない。
眠気もない。
環境も静か。
条件は整っている。
なのに。
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昼の授業が思い出される。
「一ノ瀬さん、まだ?」
何気ない声。
特別な意味はなかったはず。
事実確認。
それだけ。
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(気にする必要はない)
結論づける。
合理的に考えれば、ただのグループ分けだ。
誰が声をかけても同じ。
偶然。
それ以上の意味はない。
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ページをめくる。
問題を解く。
答えを書く。
合っている。
いつも通り。
なのに、胸の奥が落ち着かない。
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教室の後ろから笑い声が聞こえる。
朝倉裕翔が友人と話している。
楽しそうというほどでもない。
ただ自然な会話。
言葉が途切れない。
無理をしている様子もない。
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(どうして)
思考が止まりかける。
すぐに修正する。
(関係ない)
自分の課題ではない。
考える必要もない。
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それでも視線が向く。
朝倉が笑う。
相手も笑う。
何が面白いのか分からない。
分からないのに。
少しだけ、安心する感覚があった。
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さつきは視線を落とす。
ノートの文字がぼやける。
(……意味が分からない)
理解できない感覚。
今まで必要なかった種類の思考。
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胸の奥に残っているのは。
嬉しさでもない。
不安でもない。
ただ――気になる。
それだけ。
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(予定にない)
そう判断する。
自分の一日は計画通り進むはずだった。
授業を受け、復習をし、帰宅する。
それで十分。
問題はない。
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なのに。
今日という日だけ、少しだけ形が違う。
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さつきはペンを置いた。
窓の外を見る。
夕焼けが教室を赤く染めている。
理由は分からない。
名前もつけられない。
それでも確かに――
何かが変わり始めていた。
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