第15話 浮かぶ顔
数学の授業中だった。
黒板に書かれる数式を、裕翔はノートへ写していく。
理解できる。
先生の説明も、前より自然に頭へ入ってくる。
少し前までの自分が嘘みたいだった。
けれど今日は、別のことが気になっていた。
紹介可能人数:1。
あの表示が、頭の隅に残っている。
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シャーペンを動かしながら、ふと思う。
(もし……)
誰かに渡すとしたら。
考えるつもりはなかった。
まだ決める必要もない。
なのに。
勝手に顔が浮かんだ。
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佐藤。
昨日、数学分からないと言っていた。
真面目ではないけど、授業はちゃんと聞いている。
テスト前になると少し焦るタイプ。
(……いや)
違う気がした。
悪いわけじゃない。
でも、何かが足りない。
裕翔は自分でも理由を説明できなかった。
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次に浮かんだのは、部活帰りによく見るクラスメイトだった。
放課後、誰もいない教室で一人ノートを開いている女子。
名前は確か――。
そこまで考えて、裕翔はペンを止めた。
(なんで考えてるんだ俺)
まだ紹介するなんて決めていない。
そもそも本当に使うかも分からない。
なのに、頭が勝手に選び始めている。
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「朝倉、ここ分かる?」
小声で声をかけられ、現実へ戻る。
隣の席の男子がノートを見せてきた。
「この式、なんでこうなるの?」
裕翔は少し考えて、説明する。
「あー……ここ展開してから代入してる」
「え、マジ?全然気づかんかった」
相手が笑う。
「最近なんか分かりやすいよな、お前」
軽い言葉。
深い意味はない。
でもその瞬間、胸が少しざわついた。
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(もし、この人に渡したら?)
考えた瞬間、自分で驚いた。
ただ説明しただけ。
それだけなのに、“可能性”として見てしまった。
REALITÉを。
まるで道具みたいに。
裕翔は視線をノートへ戻した。
少しだけ、居心地が悪い。
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チャイムが鳴る。
授業終了。
周囲が立ち上がる中、裕翔は席に座ったままだった。
誰にするか。
まだ考えない。
そう決めたはずなのに。
廊下へ出ると、人の顔が前より目に入る。
笑っている人。
眠そうな人。
スマホを見続ける人。
何気ない日常。
なのに、どこか違って見える。
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(……選ぶって、こういうことか)
選ぶつもりがなくても。
選択肢は、勝手に現れる。
裕翔はポケットのスマホを触った。
取り出さない。
ただ存在を確かめるだけ。
REALITÉは何も言わない。
それでも確かにそこにある。
そして。
裕翔の中で、世界の見え方だけが少し変わり始めていた。
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