第13話 紹介可能人数
放課後の廊下は、少し冷えていた。
部活へ向かう足音が遠ざかっていく。
裕翔は靴箱の前で立ち止まり、スマホを取り出した。
理由は特にない。
ただ、昼休みに見た表示が頭から離れなかった。
観測対象は複数存在します。
(……気のせいじゃないよな)
REALITÉを開く。
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黒い画面。
読み込みがいつもより長い。
ノイズのような揺れ。
そして、見慣れないメニューが一つ増えていた。
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LINK
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「……なんだこれ」
初めて見る項目。
指が少し迷う。
触れていいものなのか分からない。
それでも、ゆっくりタップした。
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画面が暗転する。
白い文字が中央に浮かぶ。
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同期条件を確認しています。
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数秒。
やがて表示が切り替わる。
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紹介機能:解放済み
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裕翔は息を止めた。
「紹介……?」
次の文章が現れる。
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REALITÉは選択的共有システムです。
対象は他者へアクセス権を付与できます。
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心臓の鼓動が少し速くなる。
つまり。
自分が――誰かに渡せる。
この“最適化”を。
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画面がさらに更新される。
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紹介可能人数:1
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裕翔の指が止まった。
「……一人?」
思わず声が漏れる。
たった一人。
一度きりなのか。
増えるのか。
何も書かれていない。
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下に注意書きが追加される。
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紹介対象の選択は不可逆的です。
慎重に判断してください。
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廊下の空気が急に重く感じた。
ただの機能じゃない。
これは選択だ。
しかも、取り消せない。
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頭に顔が浮かぶ。
家族。
友達。
クラスメイト。
誰か一人。
(……なんで俺が)
そう思う。
選ばれた理由も分からない。
なのに、選ぶ責任だけがある。
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画面の下に、小さな文字。
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共有は信頼関係を前提とします。
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裕翔はスマホをゆっくり下ろした。
夕焼けが廊下の窓から差し込んでいる。
いつもと同じ放課後。
なのに、世界の見え方が少し変わった。
今までの問題は、自分だけのものだった。
努力も。
成長も。
失敗も。
でもこれは違う。
誰かの人生を変えるかもしれない。
その選択。
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「……無理だろ」
小さく呟く。
すぐには決められない。
決めてはいけない気がした。
裕翔はREALITÉを閉じ、スマホをポケットにしまった。
帰り道を歩きながら、何度も同じ考えが浮かぶ。
誰にする?
という問いではない。
もっと根本的な疑問。
(……これ、渡していいものなのか?)
答えはまだなかった。
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