第12話 観測対象
昼休みの教室は騒がしかった。
弁当の匂いと笑い声が混ざり合い、いつも通りの空気が流れている。
裕翔は窓際の席で、静かにパンをかじっていた。
スマホは机の中。
今日は朝から一度もREALITÉを開いていない。
昨夜の表示が少し気になっていた。
依存傾向:軽度。
あの言葉が、思ったより残っている。
(別に……見なくても困らない)
そう考えて、わざと触らないでいた。
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「なあ朝倉」
突然声をかけられる。
クラスメイトの佐藤だった。
「昨日の数学さ、できた?」
「まあ、そこそこ」
「マジか。俺全然分からんかったわ」
軽い会話。
いつもと同じ。
でも裕翔は、ふと違和感を覚えた。
佐藤の言葉の途中で、視線が一瞬スマホに落ちた気がした。
ほんの一瞬。
気のせいかもしれない。
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会話が終わり、裕翔は机に肘をついた。
なんとなく落ち着かない。
理由は分からない。
ただ、確認したくなる。
結局、スマホを取り出した。
(見るだけ)
REALITÉを開く。
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画面がいつもより遅く表示された。
黒い背景。
ノイズのような揺れ。
そして、見慣れない文字。
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観測環境を更新しています。
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「……?」
初めて見る表示だった。
数秒後、STATUS画面に切り替わる。
STR:E
AGI:E+
INT:D-
SOC:?
変化なし。
裕翔は小さく息を吐く。
だが、画面下部に新しい項目が増えていた。
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周囲観測:有効
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指が止まる。
「周囲……?」
タップしようとした瞬間、表示が変わった。
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近接環境において最適化反応を検出。
詳細情報は制限されています。
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裕翔の心臓が一拍遅れる。
「……最適化反応?」
意味が分からない。
でも言葉の意味は理解できる。
自分と同じ。
“最適化”。
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思わず顔を上げる。
教室。
いつもの風景。
友達の笑い声。
誰も変わらない。
なのに。
さっきの違和感が蘇る。
佐藤の視線。
一瞬だけスマホへ向いた目。
(……まさか)
考えすぎだ。
そう思う。
思うのに。
胸の奥が静かにざわつく。
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画面に、もう一行追加された。
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観測対象は複数存在します。
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裕翔の呼吸が止まる。
「……複数?」
自分だけじゃない。
REALITÉは、最初からそう言っていたわけじゃない。
でも否定もしていなかった。
画面はそれ以上何も表示しない。
説明もない。
名前も出ない。
ただ事実だけが置かれる。
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裕翔はゆっくりスマホを伏せた。
周囲の声が急に遠く感じる。
誰が。
どこに。
どれくらい。
考えようとすると、現実感が薄れていく。
同じ教室に。
同じ世界に。
同じ“ゲーム”を見ている誰かがいる。
その可能性だけが、静かに残った。
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チャイムが鳴る。
午後の授業が始まる。
皆が席へ戻る中、裕翔は一度だけ周囲を見渡した。
誰もこちらを見ていない。
いつも通り。
本当に、いつも通りだった。
だからこそ――。
(分からない)
それが一番、落ち着かなかった。
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