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030 バスティーユ作戦

 ついに『パリ・コミューン作戦』の決行日となった。

 どうやら官憲側は革命軍の動きに全く気づいていないようである。少なくとも最初に実施される『バスティーユ作戦』(牢獄襲撃作戦)の成功は間違いないだろう。

 王都のはずれにある巨大な牢獄は、犯罪者の収容人員として約3000人という威容を誇っている。そこには反体制派である政治犯も多数収監されていた。

 ただし、殺人などの罪を犯した凶悪犯についてはほとんど収監されておらず、囚人のほとんどは軽微な犯罪を犯した者たちだった。これは重犯罪者がすぐに処刑されてしまうためである。


 牢獄の周囲は高い塀で囲まれており、そこへの出入りには一つだけ存在する大きな門を使うしかない。

 今、その門を複数台の馬車が通過した。囚人や看守の食料を運搬する馬車である。馬車を操る御者たちはいつもの顔ぶれであり、きちんと通行許可証も提示したため、門番は何一つ疑うことをせず彼らを通過させたのであった。


 このあと、門番からは見えず、かつ監視塔の死角にあたる位置に停められた馬車から次々と下車する男たち…。一台の馬車から10人近くは降りただろうか。なお、全員が武装しているのは言うまでもない。

 彼らの目的は内側から門を開放することである。


 まずは監視塔から見張りを(おこな)っている看守たちを皆殺しにする。これは警報を鳴らされないためにも、最優先で(すみ)やかに行わなければならない。そしてほどなくして四か所全ての監視塔が武装した男たちによって制圧されたのである。

 これで『バスティーユ作戦』の第一段階は成功だ。

 次に門番を全て殺して門を開放し、襲撃部隊主力を牢獄内へ招き入れる。これが第二段階。

 この牢獄は内から外へのアクセス(脱走)は難しいが、外から内への侵入は極めて容易だったのである。いや、刑務所というのは、どこもそういうものかもしれないが…。


 この牢獄に勤めている看守がせいぜい100人程度であることは事前の調査で分かっている。そして襲撃部隊の総人数は1000人を超えているのである。

 どう考えても看守側に勝ち目はない。

 牢獄の建物内へと雪崩(なだ)れ込んだ襲撃部隊は、出会った看守たちを皆殺しにしながら、奪い取った牢の鍵を使って次々に囚人たちを解放していった。

 これが第三段階。

 そして、ここまで襲撃側には一人の死傷者も出ていない。まさに完全勝利である。


 だがここで看守の制服を着た一人の男が王城方面へと走り去った。暴徒によって牢獄が襲撃されたことを王城へ通報するためだ。

 これにより、すぐに騎士団が派遣されてきて、この暴動は鎮圧されることだろう。

 せっかく成功した『バスティーユ作戦』もここで(つい)えるのだろうか?


 (いな)


 王城へ向かった男だが、実は襲撃部隊の一員である。看守から奪い取った制服を着ていたのだ。

 なぜわざわざそんなことをするのか?

 それは『ロベスピエール作戦』(王城襲撃作戦)の障害となる(であろう)騎士団を排除するためである。王城に常駐する騎士団を牢獄のほうへ引き付けることで、王城の守備を手薄にすることを狙ったのだ。要するに陽動作戦である。


 さすがに統率された騎士団の存在は、民衆にとっては脅威となる。

 野外舞踏会を襲撃した『殺戮(さつりく)の舞踏会』事件においては、警備の騎士たちを各個撃破することができた。しかし、騎士たちの集団での戦闘力については決して(あなど)ることはできないし、できれば革命後の貴重な戦力として当てにしたい存在でもあるのだ。


 …


 その頃アリエルは王城の周辺に潜伏していた。『バスティーユ作戦』には参加せず、『ロベスピエール作戦』のほうのみ参戦するつもりなのだ。その主たる目的は、暴徒が国王や王妃、王太子などを皆殺しにしてしまわないようにするためである。

 あっさりと殺してしまうなど、そんな楽な死に方は許されない。それ相応の報いを受けてもらわなければならないのだ。そのためには生かしたまま捕らえる必要がある。

 アリエルはそう考えていたのであった。


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