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031 ロベスピエール作戦①

 牢獄にいた看守たちは全員殺害され、囚人たちは全員逃亡した。ちなみに、看守の持っていた武器を奪い、革命軍に参加することを表明した囚人も少なくなかったようである(主に政治犯)。

 そして現在、牢獄の門は固く閉ざされ、王城からやってくる騎士団の到着を今や遅しと待っている状態だ。ここでできるだけ時間を稼ぐ(騎士団を足止めする)のだ。

 騎士たちをこの場に拘束する時間が長ければ長いほど、ロベスピエール作戦(王城襲撃作戦)の成功確率が上昇すると言っても良いだろう。


 なお、牢獄を守るために残った革命軍の人員はそれほど多くない。多くはロベスピエール作戦に参加するため、迂回ルートを通って王城方面へと向かったのだ。

 そう、ここ(牢獄)に残る人員は皆、捨て石となるつもりであった。最終的には騎士たちに殺されるか、(運が良ければ)捕縛されることになるのは間違いない。それでも市民革命成功のために我が身を捧げようという精神は高潔であり、大層立派なものであると言えよう。


 …


 この国の騎士団は第一から第五まであり、それとは別に近衛騎士団が存在する。全部で六つの騎士団があり、それぞれの定数は100名である。

 ただし、定数を充足できていない騎士団もあるので、総勢600名というわけではない(若干少ない状態になっている)。

 軍務大臣の指揮下にある第一騎士団から第五騎士団、国王の直轄部隊である近衛騎士団というわけだ。


 今、牢獄の看守(偽物)からもたらされた知らせによって、王城内は緊張に包まれていた。

「逃げ出してきた看守からの報告によると、蜂起した民衆は約1万人。現在、そ奴らは全員牢獄に立て籠もっておるらしい。(わし)の指揮下にある五つの騎士団の全力出撃をもって、不逞(ふてい)(やから)を鎮圧するものである。人数差はあるが戦力差はそれほどないだろう。我が精鋭の騎士たちが有象無象の一般人に負けることなどありえぬわ」

 なお、『蜂起した民衆は約1万人』というのは本当のことである。ただし、そのほとんどは王城へ向けて進軍しているのだが…。

 牢獄に残って籠城している人員については、決死隊としての役割を担う者たちがせいぜい50名程度だったのである。


 上記の軍務大臣の発言に異を唱えたのは宰相だった。

「待て。それではこの王城の守備が手薄にならぬか?派遣する騎士団は三つ程度にせよ」

「戦力の逐次(ちくじ)投入は(げん)(いまし)めるべき愚行でございますれば、ここは全力出撃による鎮圧を図るべきかと…」

 各個撃破の機会を提供する兵力の分散など、戦術家としては落第点であると言えよう。この点で軍務大臣の判断が正しいのは確かなのだが、それこそが革命軍の狙いでもあるのだ。


「陛下、如何(いかが)なさいますか?」

「そうよの。間をとって四つにせよ。第一騎士団のみ王城に残しておけ」

 優柔不断な国王らしい折衷案であった。

「はっ、承知しました。それでは第二騎士団から第五騎士団までを牢獄へと向かわせまする」

 これで王城を守る騎士の総数は近衛を含めておよそ200名となった。一人の騎士が20人の民衆に対処できたとしても、相手取れる数は4000名程度。そして革命軍は約1万人である。

 なお、実際に一人の騎士が対処できる敵の数は、せいぜい3人から5人程度だろう。つまり、王城内へ突入することさえできれば、革命軍の勝利は確実である。


 王城への突入経路には水堀と跳ね橋が存在し、常時降ろされているその跳ね橋を引き上げられてしまうと民衆には手が出せなくなる。攻城兵器や渡河(とか)機材などはさすがに入手できなかったからだ。

 これを突破する方法として、事前に鹵獲(ろかく)しておいた貴族の馬車を利用することにした。

 側面に紋章が刻まれた貴族の馬車であれば王城の門をそのまま通過できるのだ(フリーパス)。


 そして、その馬車に乗り込み、門番たちを皆殺しにすることで王城内への突入経路を啓開する役割を与えられた人員の一人がアリエルだったのである。跳ね橋を引き上げるためには多くの人員が必要なのだ。したがって、門の付近にいる役人たちを10人も殺せば、跳ね橋は下りたまま(つまり、王城への突入経路は開かれたまま)となるだろう。

 ただし、この作戦は短時間で静謐(せいひつ)に行わなくてはならない。これぞまさにアリエルの能力(ギフト)の本領発揮というわけである。


 …


 現在、アリエルの乗る馬車の中には『エドワーグ・ファミリー』の若頭(わかがしら)が同乗していた。

「エル坊、いよいよだな。ついにこの国が変わるときが来たぜ。まさか生きている内にこんな心(おど)る場面に遭遇することになるとはな。まじで感無量だ」

 この男はアリエルのことを弟のように(いや、息子のように)常に気にかけてくれていた。反社の一味にしては、心根の優しい稀有(けう)な任侠なのである。年齢は30代半ばというところだろうか。


「ラルフおじさん、おいらのそばを離れないでね。しっかりと護衛を頼むよ」

 そう、ラルフと呼ばれたこの男は、アリエルの護衛という役割でこの作戦に参加しているのだ。

 対人戦において必殺の能力を持つアリエルであっても、無敵というわけではない。多数の敵に囲まれるような事態になれば、命の危険に(さら)されることになるだろう。

 また、元・侯爵令嬢であるアリエルの身体能力はそれほど高くないのだ。弓矢に狙われるような事態になった場合、自身の能力を使う(いとま)もなく殺されるかもしれない。

 ゆえに護衛は必須であり、任侠道の精神を持つラルフをその役目に指名したのはアリエル自身であった。


 今、王城の門へと向かう豪華な馬車の中で緊張感に包まれている二人。御者を入れても、たった三人の突入経路啓開部隊であった。


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