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5億円かよ!?

 その日、俺こと近所の奥様方にも有名な白金光は、いつも通りの学校生活を営み、いつも通りに家に帰った。ただ、ひとつ違っていたのは、玄関開けたらそこにはメイドさんだったのだ。

 見知らぬメイドに俺は戸惑った。ドアノブに手をかけたまま硬直する俺に、ぴゅ〜りり〜っと風が吹く。

 こやつは何者だ。曲者か、泥棒か、親戚のお姉さんか誰かだったか。いやいや、百歩譲っても俺はこんな女知らん。

 紺色の生地に白レースをあしらったメイド服を着て、頭にはヘッドドレスを乗せてしまっているこの人は、どっからどう見ても『メイドさん』だ。しかも、胸の谷間にものを落としたら遭難しそうだ。

 唖然とお口あんぐりの俺は、今ごろになって思わず手に持っていたバッグを落としてしまった。それがグットタイミングな合図になったように、家の奥から両親登場。

 ニタニタ笑っている親父はメイドさんの肩に慣れ慣れしく腕を回し、親指を立ててグッドを表すポーズをした。

「よくやった不肖の息子。カッコよさだけが取り柄だったお前だが、今日と言う日は褒めてやろう。こちらにいらっしゃるのは姫扇あやめさんだ」

「はじめまして光さま。わたくしの名前は姫扇あやめと申します。今日から光さまの身の回りのお世話をさせていただきます」

 俺はこのあやめさんとやらの言葉を理解するのに数秒を要した。むしろ、理解しきれねえ!

「ちょっと待った、むしろ何があろうと待て! 身の回りの世話って何だ。事情をこと細かく、尚且つわかりやすく、短く四〇〇字以内で説明せよ!」

 早口で捲くし立てた俺に、親父が近づいて来て肩に腕を回してきやがった。しかも息が酒臭いぞ。

「お前の転校が突然決まってな、さっさとこの家を出て行け」

「はぁ? 意味わかんねえよ。てゆーか、出て行けって、親父たちは?」

「転校するのはお前だけだ。転校先ではあやめさんが面倒みてくれるから心配せずに旅立ってこい、我が息子よ。いざ、旅立ちの時だ!」

 よし、冷静になれ俺。パニック状態になるとろくなことがない。

 まず、俺の転校が決まったらしい。あとは、あとは……わかんねえ!

 意外なところに事件の謎は隠されているはずだ。物事を別の方向から考えろ。……ちょっと待て、親父がなぜ家にいる?

「親父、仕事どうしたんだよ!? 休みじゃないだろ今日?」

「会社なら課長を殴って帰って来た。一度殴ってやりたかったんだ、あのハゲ課長の頭を」

 俺は笑うしかなかった。これまでだって笑顔で何でも乗り切ってきた。生徒会長の選挙だって、笑顔で手を振ってただけでどうにかなった。だが、今日ばかりは顔が引きつる。

 頭が真っ白になりかけていた俺の腕を突然あやめさんが掴んだ。

「では、参りましょう光さま」

「どこに?」

「水上都市アクアリウムで御座います。詳しいお話は移動中にいたします」

「わお!」

 あやめさんは俺を強引に玄関の外に連れ出そうとする。俺は足を踏ん張ったが、このメイドさん只者じゃない。なんつーバカ力だ。

 俺は両親たちに手を伸ばすが、両親は俺に向かって手を振ってやがる。しかも満面の笑み。

 やばい、このままでは拉致監禁されるに違いない。憶測だが。

 俺は強引にあやめさんの腕を振り払って親父に飛び掛った。

「クソ親父が!」

「何だとバカ息子!」

 床に尻餅をついた親父の上に俺は馬乗りになり、二人は芋虫のようにゴロゴロ転がった。転がったといっても、一回転もしないうちに廊下の壁にぶつかって痛い。

 取っ組み合いの末に、俺が親父の上に馬乗りになった。

「詳しい事情を話せ!」

「バカ息子、父さんの上に乗るとはけしからんぞ。母さん助けてくれ!」

 俺と親父の視線がいっしょに母さんに向けられた。

 母さんは眩しいまでの笑顔を浮かべながら、顎に手を当てて無駄なまでのポーズを決める。さすがは元モデルだ。

「う〜ん、社会見学だと思って転校したらいいんじゃないかしら?」

「って母さん! 説明になってないし!」

 声を荒げる俺の顔の前に一枚の紙が突き出された。紙の後ろからあやめさんの声が聞こえる。

「ここに書いてあることをお読みください」

 紙には大きく『誓約書』と書かれている。内容は『五億円で一年間、息子を貸します』と書かれてある。しかも、下の方には両親の直筆サインが書き込まれている。

「なんじゃこりゃーっ!」

 誓約書を奪い取ろうとしたところで紙が上に引かれ、俺の手は見事に空振りをしてしまった。その伸ばした腕を目にも留まらぬスピードであやめさんの繊手が力強く掴む。かなり痛い。

「では、改めて参りましょう。さ、光さま、外にリムジンが到着している頃で御座います」

 事情もままならないうちに、俺はあやめさんに腕を掴まれ床を引きずられた。

 玄関の段差で腰を打ちつけ、靴も履かずに外に連れ出された。綺麗な顔をしてやることが強引だぞ、このメイドさんは。

 玄関の前にはリムジンが止めてあった。俺は否応なしにリムジンの中に押し込められてしまった。絶対拉致監禁だ。

 リムジンの外で両親に会釈をするあやめさん。動揺しちゃってる俺。そして、俺に手を振る両親。

 あやめさんがリムジンに乗り込むと、すぐにリムジンは走り出した。

 住宅街を颯爽と走るリムジンに、両親がいつもでも満面の笑みで手を振っていた。絶対あの笑顔だけは忘れねえ、帰ってきたら復讐してやる!

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