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魔法使いにできないコト  作者: 水無雲夜斗
第四章 どうしようもなく世話焼きで、
71/75

どうしようもなく世話焼きで、 4-31 

 情報収集の基本は、一から順に辿っていくことだと思う。

 もちろんこれは持論ではあるが、ドラマとかでも探偵は状況を最初から順を追って推理を進めていくものだ。あながち間違いというわけでもないだろう。

 というわけで俺達は一年一組の教室の前にいた。

 雨桐のスタート地点はここだ。クラスメイトから、真っ先に教室を出たという目撃証言も得ている。

 その目撃者がいれば改めて詳しい話を聞きたかったのだが、既にそいつの姿はなかった。

 教室に残っていた生徒は数人で、男子のグループ。念のため軽く雨桐のことを聞いてみたが、返ってきたのは先程得た目撃証言と同じような答えだった。


 「雨桐はクラスでほぼ一番最初に教室を出ている。同じくらいの時間に教室を出た生徒がいたとしても、そいつはもう既に帰ってるか、体育館の中だろうな」


 前者はぼっちで教室に残る用事がないヤツだったのだろう。いやそうでなくても家の用事とかで急いで帰る必要のある生徒であることが推測できる。勝手にぼっちだったとか決めつけるのは良くないことだよ!

 後者は部活に所属している生徒で、早めに体育館に集まって同じ部活の連中とだべりたかったとかだろう。なんにせよ、雨桐と同じタイミングで教室を出たヤツが校舎内に残っている可能性は少ない。教室を出た後どこに向かったのかという証言を得ることはできないだろう。

 念のため九にこの周囲を探知してもらったが、雨桐らしき人物はいなかったとのこと。やはり雨桐は校舎内にはいないのだろうか。

 となると。


 「雨桐が誘拐されたとしたら、多分校舎を出た後だ」

 「どうしてですか?」

 「当時はホームルームの時間中だったが、だからこそ校舎内には人がいた。ホームルーム中の教室にな。さらに、廊下は割と声が反響しやすい。人気のない時なんかは特にな。障害物が少なくて待ち伏せもやりづらいし、そんな状態で無理に誘拐しようとしたら、多少の物音を立てざるを得ない。悲鳴なんか上げられれば当然教室の中まで聞こえるだろう。誘拐するにはかなり不利な条件だ」

 「たとえば廊下の端、階段の付近で待ち伏せされていた場合はどうでしょう?」


 確かに、校舎の両端にある階段付近はそれなりにスペースがあり、待ち伏せにも適している。もし校舎内で誘拐を結構した場合、間違いなくそこが使われるだろう。

 だが、俺は首を横に振って否定した。


 「階段付近で誘拐を決行したとして、その後どうする? 校舎内で人気のない場所といえば、特別授業で使われる三階の空き教室くらいだが、体育館に向かう連絡通路は二階にある。仮に二階で雨桐を確保したとして、そのまま暴れる雨桐を抱えて物音を立てずに三階に上がるのは至難の業だ。あまり現実的じゃない」

 「クロロホルムで眠らされていて暴れられなかったという可能性は?」

 「マンガじゃねぇんだぞ……というか、三階の空き教室は教室入口扉にある窓から中が見えるようになってる。そんな場所を使うほど連中もバカじゃねぇだろ」


 無論可能性がゼロというわけでもなく念のため二階に上がり、三階を射程内に捉えた状態で九に探知をしてもらったが、やはり結果は空振りだった。

 そうこうしている内に、残り時間はあとわずか。

 もはや雨桐の足跡を辿っている暇はない。


 「くそっ、どうする……」


 焦りが募る。

 落ち着けと命令を出しているが、今回は事が事なだけに、どうしても失敗するわけにはいかない。そのプレッシャーが命令を大きく上回って溢れ出してしまっている。

 理解はできるが、制御ができない。そんな状態で頭を必死に回すが、案の定何も浮かんでくることはない。


 「折無君……」


 そんな俺を心配そうな目で見つめるのが九だ。

 いや、違う。こいつも不安なのだ。俺が焦ってしまっているせいで、こいつにも緊張が伝播してしまっている。

 大きく息を吸って、吐く。極限状況で近くにパニックになっている人がいると逆に落ち着くことができる、という話は聞いたことがあるが、それを体験するのは初めてだった。


 「もう時間がない。とりあえず、今わかっている情報だけで推理していくぞ」

 「は、はい」


 今のところ俺達が得ている情報は、たった二つ。

 一つが、雨桐の所属する一年一組のホームルームがかなり早く終わっていたということ。

 もう一つが、雨桐は(おそらくではあるが)誰よりも先に体育館へ向かっていたということだ。


 「まず、雨桐はホームルームが終わるとすぐに教室を出た。一年一組のホームルームは他クラス及び学年と比べてもかなり早く終わっていて、廊下に人気はなかった」

 「誘拐するには絶好のシチュエーションですね」

 「だが、さっきも言った通り、多くの人が教室でホームルームを受けている本校舎内で誰かを拉致するのはかなり難易度が高い。だから、雨桐が誘拐されたのは本校舎を出た後だと推測できる」


 順当に考えるのであれば、雨桐は本校舎内にある階段を上り、二階へ。そこから体育館へと向かう連絡通路に出たと考えられる。誘拐されたのはその後だろう。


 「とすると、連絡通路で誘拐されたということですか?」

 「いや、それはないだろ」

 「? どうしてですか?」

 「連絡通路は見晴らしがいい。雨桐を誘拐するのに最低でも三人が必要として、それだけの人数が潜める場所がない」


 本校舎から体育館にかけて、連絡通路には障害物がほぼない。

 落下防止のための一メートル程度の石壁があることにはあるが、まさか連絡通路の外側でそれに捕まり、ぶら下がりながら待機していたなどということは考えにくい。

 さらに、誘拐は必ず奇襲である必要がある。

 連絡通路のど真ん中で突っ立って一般生徒のフリをし、雨桐が通りがかったところでそれを確保、という手段を考えもしたが、そんなことをすれば悲鳴を上げられる可能性がある。運動部はアホなヤツが多そうなのでやりそうな手口ではあるが、失敗する可能性の方が高く、現状こうして誘拐に成功している時点で、その手段を取った可能性は低いと考えていいはずだ。


 「あと、見晴らしのいい場所だと、仮に雨桐の確保に成功したとしても、目撃者が現れる可能性がある。その後雨桐をどこかに攫うことが困難だろう」

 「なるほど、確かにその通りですね」


 これで連絡通路で雨桐が誘拐されたという可能性は消えたが、そうなると問題はふりだしに戻る。

 運動部の連中はどのように雨桐を確保したのか。

 俺達は雨桐が教室を出た後の足跡を知らないので、あるいは連絡通路以外の道を通って体育館に向かったのかもしれない。だが、ホームルームが終わるや否や真っ先に教室を出て体育館に向かった雨桐が、わざわざ遠回りをする理由があるだろうか?

 やはり雨桐は連絡通路を使って体育館に向かったと考えるのが妥当だ。しかし、それでは疑問が堂々巡りになる。


 「でも、誘拐犯は雨桐さんが誰よりも早く体育館に向かって来ることを知っていたんですよね? だったら連絡通路で素早く確保して、そのまま素早く連れ去ってしまえばいいのでは?」

 「その線が一番妥当だが、そうなるとランダム要素が増えるな。本校舎以外のどこにでも雨桐を連れ去れる」


 体育館の外周通路には、三階へ上がる階段の他にも下へと下る階段もある。

 そこを通れば部室棟にも運び込めるし、なんだったらプールの更衣室、グラウンドにある体育用具室にも連れ込める。あるいは校外だって可能だろう。

 よってそれはできるだけ考えたくない。というより、その可能性はあまりにも低いと俺は思っているからだ。


 「いや、待てよ」


 違和感がある。

 何故俺はその可能性を低いと考えている?

 妥当に考えるのであれば、九の言う通りの手法を取るのが一番だ。

 相手は雨桐が誰よりも早く体育館に来ることを知っていた。一応補足しておくと、体育館内には既に部会選挙実行委員が数名控えているので、誘拐を決行するとしたら当時一番人気のなかったはずの連絡通路であると考えるのはあまりにも普通のことだ。

 それこそが第一の違和感だ。

 何故誘拐犯は雨桐が真っ先に体育館に来ることを知っていた?

 ホームルームが終わる時間はクラスによってランダムだ。事前に「一年一組のホームルームは終わるのがかなり早い」という情報でも持っていれば話は別だが、話によると一組の担任教師はたまにホームルームを早く終わらせることがあるが、それ以外の日は至って普通の時間にホームルームを終わらせている。

 つまり、今日が偶然その日であったというだけで、それを知り得る手段はないはずだ。


 「雨桐、一年一組の担任教師ってどっかの部の顧問だったりするか?」

 「え、関林先生ですか? 確か吹奏楽部の顧問だったと思いますが」


 文化部の顧問ということは、運動部と繋がっていて、誘拐に加担しているという線は薄いだろう。

 なら、運動部の連中が雨桐の到着時間を知る術はない。雨桐は偶然早い時間にホームルームが終わって、誰よりも早く教室を出たということになる。

 そうなると、一つの解答が生まれる。


 「九、誘拐犯が連絡通路で雨桐を待ち伏せることは不可能だ」

 「え、どうしてですか?」

 「まず運動部の連中はどうやって雨桐が一番に体育館に来ると知ることができた? あいつらにはそれを知る術がない。一年一組のホームルームが今日、どのクラス及び学年よりも早くを終わったのはただの偶然だからな。だから、あいつらは雨桐がいつ体育館に来るかわからなかったんだ」

 「それがどういう……あっ!」

 「そうだ、雨桐がいつ来るかわからないということは、一年一組のホームルームが他のクラスと同じような時間に終わっていた場合、雨桐が他の生徒の中に紛れて連絡通路を通る可能性もあった」


 俺が体育館に向かって連絡通路を歩いていた時、ちょうどそうであったように。


 「他の生徒の中にいる雨桐を誘拐することは不可能だ。目撃者が多すぎるからな。つまり、ヤツらはそれ以外の場所で雨桐を誘拐したことになる」

 「確かに、その通りです。でも、そうすると誘拐犯は一体どこで雨桐さんを?」

 「それはな―――」


 その解答も、雨桐がいつ体育館に来るかわからないという条件が解決してくれた。

 本校舎での誘拐は不可能。連絡通路での誘拐も不可能。となると、雨桐が体育館を訪れる過程で通る道の中で誘拐に適した場所は一つ。

 そして、それは雨桐の軟禁場所の特定にも繋がる。

 ギリギリ間に合った。というわけで、ここからは俺達のターンだ。

 あまり自信はないが、ここまで来たら最後までやってやるとしよう。

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