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魔法使いにできないコト  作者: 水無雲夜斗
第四章 どうしようもなく世話焼きで、
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どうしようもなく世話焼きで、 4-30

 体育館を出て、まず最初に足を延ばしたのは雨桐の所属する一年一組の教室である。

 もしやまだ教室から出ていないかとも思って来てみたが、やはり教室の中に雨桐の姿はなかった。

 次に部室棟、軽音部部室。

 軽音部員は全員体育館に集合しているため、部室の鍵は閉まっている。一応ノックもしてみたが、反応はなく中に人がいる気配もない。

 道中(九が)それなりに聞き込みを行ったが、それらしき姿を見た者はいなかった。

 体育館にいる結月達から連絡がないかとも思い、何度か携帯を確認したが、俺のにも九のにも連絡は入っていない。すれ違いになった可能性は低そうだ。

 念のため一年一組の教室で確認したところ、雨桐が教室を出たところまでは姿が確認されているらしい。

 ちなみに、一年一組のホームルームは担任の教師がたまに早く終わらせることがあるらしく、今日がその日だったらしい。よって、雨桐は少なくとも一年生の中ではどのクラスのどの生徒よりも早く教室を出たということになる。


 「ホームルームが終わってからすぐに教室を出た雨桐さんが、そのままどこかに姿を眩ませた……?」


 という九の呟きが、現状で俺達の把握している全てである。

 体育館へと続く連絡通路で、雨桐が通らないかを確認しつつ、現状整理の時間だ。


 「一応、今回の主役は相浦先輩だ。最悪雨桐が来なくても部会長選挙自体は始められるけどな」

 「それはそうですが……それでも、雨桐さんが来ないというのはどこかおかしいです」

 「今更怖気づいて逃げたってわけでもないだろうしな」


 最後の俺の言葉の意味は九に伝わらなかったため、彼女は首を傾げていたが、今朝の雨桐の様子から察するに、この部会長選挙に臆して逃げたということは考えにくい。

 また、ホームルームが終わってからすぐに教室を出たというところから、彼女は俺と同様すぐに体育館に向かった可能性が高そうだ。

 問題は、その後に雨桐の姿を見かけた人がいないということだが。


 「と、待て、電話だ」


 ポケットの中で携帯が振動しているのを感じ、俺はそれを取り出す。

 画面には「結月」の文字が表示されていた。九ではなく俺にかけてきたという時点で、もう嫌な予感しかしない。


 「もしもし、結月か?」

 『ああ、弟よ、弥生は見つかったか?』

 「いや、まだだ。なんかあったのか?」


 沈黙。

 相手の表情は見えないが、なんとなく「やはりか」と苦々しい表情を浮かべているのが目に見える。

 おそらく、俺の予想は当たっているだろう。だからこそ核心に触れる。


 「運動部の連中が何か仕掛けてきたんだな?」

 『……ああ、そうだ』


 これには俺も頭を押さえた。

 一通り結月から説明を受け、最低限のホウレンソウを済ませて電話を切る。

 隣にいた九が心配そうにこちらを見ている。このタイミングでの電話と俺の様子から、ただならぬ事態が起きていることを察したのだろう。だが、正直コイツには話したくないような内容だ。結月がわざわざ俺に連絡してくるくらいの出来事だしな。

 とはいえ、九は関係者だ。話さないわけにもいかず、正直に口を割る。


 「雨桐が誘拐された。運動部の連中は雨桐を返してほしかったら相浦先輩は部会長選挙を棄権するようにって脅迫状を送ってきたらしい」

 「え……」


 正確には差出人不明だが、間違いなく運動部の連中だろう。

 九が息を呑む。ショックと動揺が伝わってくるが、今はこんなところで立ち止まっている場合ではない。


 「部会長選挙開始まであと十分ってところか。正直それまでに雨桐を探し出すのは無理っぽいな」


 一番手っ取り早くこの事件を解決するには選挙開始時刻までに雨桐を取り返す必要があるが、それは叶わない。

 かといって、ここで相浦先輩に棄権をさせるわけにもいかない。それは雨桐とて決して望まないことだろうし、それに、ここで相浦先輩が棄権してしまえば、相浦先輩のことを支持してくれていた文化部の生徒達が「何かあった」と気付く可能性が高い。

 そうなれば疑いの矛先が向くのは、間違いなく運動部だ。それをきっかけに運動部と文化部の軋轢はこれまで以上に大きくなってしまうだろうし、最悪生徒会に「捜査」の依頼が来て運動部に探りを入れなければならない。

 こちらには脅迫状という証拠もあるし、捜査など行えば間違いなく運動部の罪は明るみに出る。俺は法律に詳しいわけではないが、誘拐というのは立派な犯罪であるわけで、まず間違いなく警察沙汰になるだろう。

 正直な話、それだけは避けたい。いくら相手に非があるとはいえ、生徒同士が起こした問題でこの学校の信頼を落とすような事態になってしまえば、大人達は校則を厳しくし、学生の自由を縛ろうとするはずだ。つまり、大人にとっては問題を起こされて大迷惑だし、生徒達にとっては自由を奪われて大迷惑。どちらにとっても不利益にしかならない最悪な状況に陥ってしまう。

 よって、俺達が取るべき選択肢は一つに限られる。


 「ひとまず、相浦先輩には選挙に出てもらう。というかそれしかない」

 「けど、それだと雨桐さんが」

 「連中もそこまで手荒な真似をするほどの度胸はないはずだ。断言はできないけどな」


 誘拐までやってのける連中だし、正直望み薄ではあるが、最終手段に訴えるのは相浦先輩が棄権をしないと判断できた後―――即ち、この集会において選挙の前に行われるプログラム、立候補者の決意表明演説で相浦先輩の番が終わった辺りだろう。

 幸いなことに、演説の順番において相浦先輩は八人中八番目、つまり最後になっている。演説の順番は出馬した時期が早い者順になっているからだ。まさかこんなところで立候補が遅れたことのメリットが生まれるなど想像もしていなかったが。

 だが、それでも猶予時間は十六時四十五分までといったところだろう。いや、それよりも少なく見積もるべきだ。


 「いいか九、運動部の連中に怪しまれないためにも、結月達は会場を離れることができない。行動できるのは動けばどうしても目立ってしまう生徒会の正規メンバーではなく、部活に所属していないから部会長選挙に出なくてもいい俺達だけだ。だから、俺達で雨桐を探す」

 「そんな……」

 「今は十六時二十四分だから、最低でも四十分までには雨桐を見つけておきたい。どうやって救出するかについては既に算段が立ってるから、あと約十五分が勝負だ」


 十五分。

 授業中なら長く感じるような時間だが、今はそれがあまりにも短く感じる。

 ガラではないが、気合を入れる必要がある。

 だが、九は意気消沈したように俯いていた。


 「私のせいです……」

 「は?」

 「私がちゃんと雨桐さんについていなかったから」


 若干涙声になりつつ雨桐は過去を悔やむ。

 まったく時間がないというのに、世話のかかるヤツだ。


 「いや、俺のせいだ。正直運動部の連中が何かしてくる可能性について考慮はしていたが、その可能性はかなり低いと思っていた」

 「どういうことですか?」

 「現状において、運動部側は選挙でほぼ勝ち確の状況だ。わざわざ危険を冒してでもこちらに何かを仕掛けてくる必要性はない」


 事前調査での菅原竜太郎と相浦先輩の差は六対四であちらがかなり優勢だ。浮動票というものもあるが、それでも勝つことはあまり現実的ではない数値といえる。

 だからこそ妨害してきたとしてもせいぜい嫌がらせの類だと思っていたので、目を光らせておくのは会場だけで十分だと考えていた。しかし運動部の連中は俺が思ったよりも頭が悪かった。


 「それがまさか誘拐なんてほぼ最終手段みたいなことをしてくるとはな。多分相浦先輩が万が一にも勝つ確率を潰そうとしてこんな手段に訴えたんだろうが、やりすぎにも程がある」


 だが、その愚かしい行動が今はこれ以上ない程に憎らしい。

 雨桐を人質に取り、相浦先輩が部会長選挙を棄権してしまえば、俺の用意した作戦も意味のないものになってしまう。まさにこの状況において、運動部は的確に俺の急所を突いてきた。


 「とにかく時間が惜しい。お前がここでくよくよ後悔したいっていうなら俺一人で探すが、どうする?」


 こんなやりとりをしている間にも時間は無慈悲にも経過していく。

 たった二人しかいない人手だ。九が欠けることは非常に痛いが、動けないヤツを連れて行って足手纏いになられるのも困る。

 とはいえ、この場合の九の返事など決まりきっているが。


 「いえ、行きます。一刻も早く雨桐さんを見つけましょう」

 「よし、それじゃあ―――」

 「折無君は部室棟を、私は校舎の方を調べてみます!」

 「いやいやちょっと待て!」


 と言って駆け出そうとする九の手を掴み、強引に引き留める。

 咄嗟にそんな行動に出たので女の子の手を触ってしまうというアクシデントを起こしてしまったわけだが、いやいや今はそんなことを考えている場合じゃない。


 「この短時間で闇雲に探し回ってどうする。多分雨桐が軟禁されているのは学校の敷地内だとは思うが、こっちの人手は二人しかいない。広い校内を適当に探したところで見つかるわけねーだろ」


 鳳城学園はそれなりに敷地面積が広い。

 さらに構造物について言及すれば、本校舎が並の学校ほどあるのに加え、部室棟などというオマケまでついているのだ。仮に百の人手があったとしても、十五分で雨桐の場所を突き止めることができるかどうか。


 「だったらどうしろっていうんですか」

 「そのためにお前の魔法があるんだろうが」


 あ、と九の口から間抜けな一文字が零れ落ちる。

 今更すぎるが、九の魔法『探知』は、周囲にあるものをソナーのような魔力波で探る力だ。その力を使って俺のポケットの中にある所有物を的確に言い当てたという実績もある。

 その魔法を見せてもらったのは一回だけなので、詳細は知らない。だが、その魔法があれば雨桐を探すことも可能なのではないか。


 「確かに、私の魔法でなら雨桐さんの居場所を探知することができます」

 「なら、さっそく―――」

 「でも、私の魔法はまだ弱くて、一度私の強い魔力波に触れたことのある人なら数キロ先にいてもわかるのですが、雨桐さんにその魔力波を当てたことはないので……」

 「魔力波?」

 「ソナーでいうところの振動波みたいなものです。私は魔力を並状に拡散させて放って周囲を探知しているので」


 なるほど、つまり九の魔法は魔力波とやらで一度対象に九の魔力を浴びせてマーキングをしておかないと真価を発揮できないというわけか。

 思えば、九はこの前魔法を使って俺の居場所を探知し、住所を割り出していた。それはコイツと初めて会ったあの日、俺が九の魔法を披露してもらった時にマーキングされていたから可能だったということか。

 そして九は「強い」魔力波と言った。これはつまりマーキングをするためには九の魔力波を至近距離で浴びせる必要があるのだろう。でなければ数キロ先にまでいる俺に届くほどの魔力波を放つことができて、その過程で魔力波を浴びた人間全員にマーキングできるということになってしまう。そんなことができるならいちいちマーキングを行う必要はないだろう。


 「その魔力波ってヤツを浴びせてないヤツを探ることはできないのか?」

 「可能ですが、精度が著しく低くなります。特定の人物だと識別できるのは、せいぜい三十メートルが限度です」


 なんだよそれ割と使えない魔法だな。地味な力だし結構な距離は探れると踏んでいたのだが。

 いや、それでも九の魔法が頼りの綱であることに変わりはない。三十メートルとはいえ、この状況で九から直径六十メートル以内を探れるというのは非常に大きい。


 「よし、だったら走りながらその魔法を展開して雨桐を探そう」

 「すみません、走ったり集中できない状況で魔法を発動すると、集中度に応じて探知範囲が短くなるので……」


 つまり走りながらだと三十メートルは探れないということか。

 となると、虱潰しに学園内を探し回る作戦は却下だ。魔法を使わずに探すのとそう大差がなさそうだしな。

 残る手は雨桐が軟禁されていそうな場所を特定することだが、これはかなりの難問だ。なにせ現状で手がかりがほぼゼロなのだから。

 だが、やるしかない。


 「とりあえずここでうだうだ考えていても仕方ない、情報を集めに行くぞ」

 

 タイムリミットの十六時四十分まで残り十三分。

 残された時間はあまりにも少ないが、やってやれないことはないだろう。

 魔法使いをあまりナメてもらっては困る。

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